民法第944条「財産分離の請求後の相続人による管理」

 

民法第944条 財産分離の請求後の相続人による管理

相続人は、単純承認をした後でも、財産分離の請求があったときは、以後、その固有財産におけるのと同一の注意をもって、相続財産の管理をしなければならない。ただし、家庭裁判所が相続財産の管理人を選任したときは、この限りでない。

2項

第六百四十五条から第六百四十七条まで並びに第六百五十条第一項及び第二項の規定は、前項の場合について準用する。

 

意訳

相続人は単純承認を選択した後であっても、相続債権者や受遺者から財産分離の請求があったときは、自分の財産と同じだけの注意をもって、相続財産の管理をしなければならない。

ただし、家庭裁判所が相続財産の管理人を選任した場合は除く。

2項

相続財産を管理する相続人は、以下のような行為をするときも前項と同じように注意を払って行わなければならない。

・相続債権者や受遺者への報告
・相続債権者や受遺者への受取物の引渡し等
・相続債権者や受遺者への金銭の消費についての責任
・相続債権者や受遺者への費用等の償還請求等

 

条文解説

相続人が単純承認(民法第920条)を選択した場合、原則として被相続人から受け継いだ権利・義務は自分のものになりますので、元々もっていた自分の財産と取得した遺産を区別して管理することはありません。

ところが、たとえ単純承認をした後であっても、相続債権者や受遺者から財産分離の請求があった場合は取得した遺産のなかから彼らへ返済をしなければならなくなるため(民法第942条)、自分が元々もっていた財産とゴッチャにしてしまうと具合が悪くなります。

そこで家庭裁判所から相続財産管理人が選任されないケースでは相続財産を管理する相続人に対して、自分が元々もっていた財産と同じだけの注意をもって管理するよう求めました。

 

2項

遺産の管理について、相続債権者や受遺者は相続人に遺産の管理を任せている(委任している)というように解釈し、委任に関するルールを限定承認の場合にも適用することとしています。
下記の関連条文の「委任者 → 相続債権者」「受任者 → 相続人」と置き換えて読んでいただくと理解しやすくなるかと思います。

 

関連条文

民法第920条 単純承認の効力

相続人は、単純承認をしたときは、無限に被相続人の権利義務を承継する。

 

民法第942条 財産分離の効力

財産分離の請求をした者及び前条第二項の規定により配当加入の申出をした者は、相続財産について、相続人の債権者に先立って弁済を受ける。

 

民法第941条 相続債権者又は受遺者の請求による財産分離

第2項

家庭裁判所が前項の請求によって財産分離を命じたときは、その請求をした者は、五日以内に、他の相続債権者及び受遺者に対し、財産分離の命令があったこと及び一定の期間内に配当加入の申出をすべき旨を公告しなければならない。この場合において、その期間は、二箇月を下ることができない。

 

民法第645条 受任者による報告

受任者は、委任者の請求があるときは、いつでも委任事務の処理の状況を報告し、委任が終了した後は、遅滞なくその経過及び結果を報告しなければならない。

 

民法第646条 受任者による受取物の引渡し等

受任者は、委任事務を処理するに当たって受け取った金銭その他の物を委任者に引き渡さなければならない。その収取した果実についても、同様とする。

2項

受任者は、委任者のために自己の名で取得した権利を委任者に移転しなければならない。

 

民法第647条 受任者の金銭の消費についての責任

受任者は、委任者に引き渡すべき金額又はその利益のために用いるべき金額を自己のために消費したときは、その消費した日以後の利息を支払わなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。

 

民法第650条 受任者による費用等の償還請求等

受任者は、委任事務を処理するのに必要と認められる費用を支出したときは、委任者に対し、その費用及び支出の日以後におけるその利息の償還を請求することができる。

2項

受任者は、委任事務を処理するのに必要と認められる債務を負担したときは、委任者に対し、自己に代わってその弁済をすることを請求することができる。この場合において、その債務が弁済期にないときは、委任者に対し、相当の担保を供させることができる。

 

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