民法第993条 遺贈義務者による費用の償還請求
第二百九十九条の規定は、遺贈義務者が遺言者の死亡後に遺贈の目的物について費用を支出した場合について準用する。
2項
果実を収取するために支出した通常の必要費は、果実の価格を超えない限度で、その償還を請求することができる。
意訳
遺言書を書いた人の死亡後、遺贈を実行する義務を負う人が遺贈される物のために支出した費用については民法第299条(留置権者による費用の償還請求)のルールを当てはめて適用する。
2項
遺贈義務者は、果実を取得するために要した通常必要であると考えられる費用について、その果実の価格を超えない範囲内で受遺者に対して償還の請求をすることができる。
条文解説
通常、遺贈の効力発生から遺贈を実行するまでの間に多少の時間差があります。
本条は、遺贈が実行されるまでの間に遺贈される物に関して遺贈義務者(亡くなった方の相続人や遺言執行者など)が費用を立て替えて支出した場合に、その費用全額を受遺者(遺贈を受ける人)に対して請求できるというルールです。
ここでいう費用とは、たとえば建物の修繕費や不動産にかかる固定資産税などのことを指します。
なお、条文中に「遺贈の目的物について」とあることから、この条文は遺贈されるものが指定されている『特定遺贈』の場合にのみ適用されると解されます。
一方で割合を指定した遺贈である『包括遺贈』の場合の費用負担については、民法第885条(相続財産に関する費用)が適用され、相続財産の中から捻出することになります。
2項
先に準用するルール(民法第299条第2項、下記「関連条文」参照)をご覧いただいた方が分かりやすいかもしれません。
遺贈が実行されるまでの間に遺贈義務者が遺贈物に関して費用を出し、その結果、遺贈物の価格が増加した場合には「費用全額」または「増加した価格分」のどちらかを受遺者に対して請求することができます。(有益費の償還)
どちらの金額を支払うかは受遺者が決めることになりますが、すぐに全額支払えない場合には受遺者からの求めにより裁判所は支払いまでに相当の期限を与えることができます。
この場合、たとえ受遺者が有益費の償還を終えていなくても遺贈義務者は遺贈の実行を拒むことは出来ません。
また、遺贈義務者が果実(物から生まれる利益)を収取するために支出した費用についても、受遺者に対して請求することができます。
「果実を収取するための費用」には、たとえば農作物を収穫するための費用や、地代・家賃を集金するために雇った集金人に対する報酬などが含まれます。
関連条文
民法第299条 留置権者による費用の償還請求
留置権者は、留置物について必要費を支出したときは、所有者にその償還をさせることができる。
2項
留置権者は、留置物について有益費を支出したときは、これによる価格の増加が現存する場合に限り、所有者の選択に従い、その支出した金額又は増価額を償還させることができる。ただし、裁判所は、所有者の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる。
民法第885条 相続財産に関する費用
相続財産に関する費用は、その財産の中から支弁する。ただし、相続人の過失によるものは、この限りでない。