民法第1035条「居住建物の返還等」

民法第1035条 居住建物の返還等

配偶者は、配偶者居住権が消滅したときは、居住建物の返還をしなければならない。ただし、配偶者が居住建物について共有持分を有する場合は、居住建物の所有者は、配偶者居住権が消滅したことを理由としては、居住建物の返還を求めることができない。

2項

第五百九十九条第一項及び第二項並びに第六百二十一条の規定は、前項本文の規定により配偶者が相続の開始後に附属させた物がある居住建物又は相続の開始後に生じた損傷がある居住建物の返還をする場合について準用する。

 

意訳

配偶者居住権が消滅したときは、配偶者は建物を明け渡さなければならない。

ただし、配偶者が建物の所有権の持分をもっている場合は、建物の所有者は配偶者居住権の消滅を理由に明け渡しを求めることはできない。

2項

配偶者居住権が消滅したことを理由に配偶者が建物を明け渡さなければならない場合、配偶者が相続の開始後に建物に附属させた物があるとき、または相続の開始後に建物に生じた損傷があるときは、民法第599条第1項、第2項(借主による収去等)、第621条(賃借人の原状回復義務)の規定を当てはめて適用する。

 

条文解説

配偶者居住権が消滅した場合には配偶者は建物を返還しなければいけません。

 

原則として配偶者居住権の存続期間は配偶者の終身の間ですが(民法第1030条)、遺産分割や遺言によって存続期間についての「別段の定め」をすることもできるため(民法第1030条但書)、配偶者の存命中に配偶者居住権が消滅するケースもあります。

また、建物所有者からの意思表示による消滅(民法第1032条)や建物の全部滅失による配偶者居住権の消滅(民法第1036条、民法第616条の2)に規定されているようなケースもこの条文の適用場面として考えられます。

 

ただし、配偶者が建物の所有権の持分をもっている場合、建物の所有者は配偶者に対して配偶者居住権の消滅を理由に建物の明け渡しを求めることはできません。

配偶者が建物について持分をもっている限りは、共有者として共有物(建物)の全部についてその持分に応じた使用をすることができるからです。(民法第249条)

 

2項

配偶者居住権を取得した配偶者が相続開始後にエアコンや照明器具など建物に附属させた物がある場合、配偶者居住権が消滅したことを理由に建物を明け渡さなければならないときは、配偶者はその附属させた物を収去する義務を負います。(民法第599条の準用)

ただし、壁紙にように建物から分離できないものや、分離するのに過分な費用がかかったりする場合にはこの限りではありません。(民法第599条但書の準用)

一方で、建物所有者から「この照明器具は残しておいてほしい」と言われても、配偶者は収去できる権利ももっています。(民法第599条2項の準用)

 

また相続開始後に生じた建物の損傷については、配偶者が原状に復する義務を負います。(民法第621条の準用)

ただし、台風や地震などの自然災害によって生じた損傷などのように配偶者に責任がない場合にはこの義務を負う必要はありません。(民法第621条但書の準用)

 

関連条文

民法第249条 共有物の使用

各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる。

 

民法第599条 借主による収去等

借主は、借用物を受け取った後にこれに附属させた物がある場合において、使用貸借が終了したときは、その附属させた物を収去する義務を負う。ただし、借用物から分離することができない物又は分離するのに過分の費用を要する物については、この限りでない。

第2項

借主は、借用物を受け取った後にこれに附属させた物を収去することができる。

 

民法第616条の2 賃借物の全部滅失等による賃貸借の終了

賃借物の全部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合には、賃貸借は、これによって終了する。

 

民法第621条 賃借人の原状回復義務

賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。

 

民法第1030条 配偶者居住権の存続期間

配偶者居住権の存続期間は、配偶者の終身の間とする。ただし、遺産の分割の協議若しくは遺言に別段の定めがあるとき、又は家庭裁判所が遺産の分割の審判において別段の定めをしたときは、その定めるところによる。

 

民法第1032条 配偶者による使用及び収益

配偶者は、従前の用法に従い、善良な管理者の注意をもって、居住建物の使用及び収益をしなければならない。ただし、従前居住の用に供していなかった部分について、これを居住の用に供することを妨げない。

第3項

配偶者は、居住建物の所有者の承諾を得なければ、居住建物の改築若しくは増築をし、又は第三者に居住建物の使用若しくは収益をさせることができない。

第4項

配偶者が第一項又は前項の規定に違反した場合において、居住建物の所有者が相当の期間を定めてその是正の催告をし、その期間内に是正がされないときは、居住建物の所有者は、当該配偶者に対する意思表示によって配偶者居住権を消滅させることができる。

 

民法第1036条 使用貸借及び賃貸借の規定の準用

第五百九十七条第一項及び第三項、第六百条、第六百十三条並びに第六百十六条の二の規定は、配偶者居住権について準用する。

 

 

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