民法第1041条「使用貸借等の規定の準用」

民法第1041条 使用貸借等の規定の準用

第五百九十七条第三項、第六百条、第六百十六条の二、第千三十二条第二項、第千三十三条及び第千三十四条の規定は、配偶者短期居住権について準用する。

 

意訳

民法第597条3項(期間満了等による使用貸借の終了)、第600条(損害賠償及び費用の償還の請求権についての期間の制限)、第616条の2(賃借物の全部滅失等による賃貸借の終了)、第1032条2項(配偶者による使用及び収益)、第1033条(居住建物の修繕等)、第1034条(居住建物の費用の負担)に規定されているルールは、配偶者短期居住権についても適用する。

 

条文解説

民法第597条第3項(期間満了等による使用貸借の終了)の準用

配偶者短期居住権は配偶者の死亡によって終了します。

「配偶者居住権」の場合には民法第597条第1項の準用によって、建物所有者と配偶者の間で存続期間を定めた場合、その期間が満了することで終了することも規定されていました(民法第1036条)が、「配偶者短期居住権」の場合にはこの規定の準用はありません。

 

民法第600条(損害賠償及び費用の償還の請求権についての期間の制限)の準用

配偶者は配偶者短期居住権またはその目的物(建物)の性質によって定まった用法に従い、その物の使用及び収益をしなければなりません。(民法第594条1項)

ところが、配偶者がこれに反して損害を発生させた場合には建物取得者は配偶者に対して損害賠償を請求することができます。

この損害賠償の請求は建物取得者が建物の返還を受けたときから1年以内に行わなければなりません。

 

一方で、配偶者が建物の改良のために支出した金額や有益費がある場合には、配偶者は建物取得者に対してその償還を請求することができ、こちらも建物を返還した時から1年以内にその請求をしなければなりません。(民法第196条2項)

 

ただし、建物取得者が配偶者に対して損害賠償を請求する場合は、「定まった用法に従っていない使用をした時点」を起算点とする消滅時効(10年)にも注意をしなければなりません。

遺産分割が長期(10年以上)にわってしまい、その間に配偶者が配偶者短期居住権をもとに建物の使用を続けた場合、建物取得者が定まった用法に従っていない使用に気が付くまでに10年が経過してしまうこともあり、それで時効の完成を認めてしまう(損害賠償が請求できない)と建物取得者にとっては酷な話になってしまいます。

そこで、建物の返還から1年を経過するまでの間は時効は完成しないこととなっています。

 

民法第616条の2(賃借物の全部滅失等による賃貸借の終了)の準用

建物の全部が滅失してしまったり、使用をすることができなくなった場合には配偶者短期居住権は消滅します。

 

民法第1032条第2項(配偶者による使用及び収益)の準用

配偶者短期居住権は配偶者しか取得することができない権利です。

したがって、配偶者短期居住権を譲渡することは認められていません。

 

民法第1033条(居住建物の修繕等)の準用

配偶者短期居住権を取得した配偶者はその家に住み続けるために必要な修繕を行うことができます。(第1項の準用)

修繕にかかった費用については、民法第1034条1項に規定されている『通常の必要費』に該当するため、原則として配偶者が負担することになります。

 

一方で、建物の修繕が必要であるにもかかわらず、配偶者が修繕を行わない場合や何らかの理由で修繕できない場合は、建物の取得者がその修繕を行うことができるようになります。(第2項の準用)

この場合も原則として修繕費は配偶者の負担となるため、建物取得者が修繕費を立て替えて支払った場合は配偶者に対して1年以内に立替金の返還を請求しなければなりません。(1年で時効が成立するため。民法第600条2項)

 

また、建物の修繕が必要であるにもかかわらず配偶者が修繕をできない場合や、建物取得者以外の人が『この建物の所有者は私です!』と言ってきた場合は、配偶者は建物取得者に対して遅滞なくその旨を通知しなければなりません。(第3項の準用)

 

民法第1034条(居住建物の費用の負担)の準用

建物の「通常の必要費」は、配偶者短期居住権を取得した配偶者が負担をすることになります。(第1項の準用)

配偶者短期居住権は『無償で建物の使用ができる権利』ですので、無償で建物を使わせてもらっている以上、通常発生しうる費用については使用している配偶者が負担し、建物取得者にこれを請求することはできません。

ここでいう「通常の必要費」とは、建物の保存や管理を行うための費用のことを指し、たとえば建物の固定資産税や修繕費、不用品の撤去費用、借地の場合は地代がこれに含まれます。

 

また、民法第1034条第2項でいう「通常必要となる費用」以外の費用には、建物の改良にかかった費用、地震や台風の被害によって必要となった大規模な修繕のための費用、または有益費などがこれに含まれます。

有益費とは建物の価値を増加させるために支出した費用のことを指し、たとえば断熱性の高い窓への取り替えや水回りの高性能システムへのリフォーム費用が該当します。

これらの費用を配偶者が支払った場合、その償還を建物取得者に請求することができるのは建物を返した時点で、そのタイミングで建物の価値が増加している場合には、「実際にかかった費用」または「価値が増加した分の金額」のいずれかを建物取得者の選択で配偶者に返すことになります。

 

 

関連条文

民法第597条 期間満了等による使用貸借の終了

第3項

使用貸借は、借主の死亡によって終了する。

 

民法第600条 損害賠償及び費用の償還の請求権についての期間の制限

契約の本旨に反する使用又は収益によって生じた損害の賠償及び借主が支出した費用の償還は、貸主が返還を受けた時から一年以内に請求しなければならない。

第2項

前項の損害賠償の請求権については、貸主が返還を受けた時から一年を経過するまでの間は、時効は、完成しない。

 

民法第616条の2 賃借物の全部滅失等による賃貸借の終了

賃借物の全部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合には、賃貸借は、これによって終了する。

 

民法第1032条 配偶者による使用及び収益

第2項

配偶者居住権は、譲渡することができない。

 

民法第1033条 居住建物の修繕等

偶者は、居住建物の使用及び収益に必要な修繕をすることができる。

第2項

居住建物の修繕が必要である場合において、配偶者が相当の期間内に必要な修繕をしないときは、居住建物の所有者は、その修繕をすることができる。

第3項

居住建物が修繕を要するとき(第一項の規定により配偶者が自らその修繕をするときを除く。)、又は居住建物について権利を主張する者があるときは、配偶者は、居住建物の所有者に対し、遅滞なくその旨を通知しなければならない。ただし、居住建物の所有者が既にこれを知っているときは、この限りでない。

 

民法第1034条 居住建物の費用の負担

配偶者は、居住建物の通常の必要費を負担する。

第2項

第五百八十三条第二項の規定は、前項の通常の必要費以外の費用について準用する。

 

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