民法第1040条「居住建物の返還等」

民法第1040条 居住建物の返還等

配偶者は、前条に規定する場合を除き、配偶者短期居住権が消滅したときは、居住建物の返還をしなければならない。ただし、配偶者が居住建物について共有持分を有する場合は、居住建物取得者は、配偶者短期居住権が消滅したことを理由としては、居住建物の返還を求めることができない。

2項

第五百九十九条第一項及び第二項並びに第六百二十一条の規定は、前項本文の規定により配偶者が相続の開始後に附属させた物がある居住建物又は相続の開始後に生じた損傷がある居住建物の返還をする場合について準用する。

 

意訳

配偶者は民法第1039条「配偶者居住権の取得による配偶者短期居住権の消滅」の場合を除き、配偶者短期居住権が消滅したときは建物を返還しなければならない。

ただし、配偶者が建物の共有持分をもっている場合は、建物取得者は配偶者に対して配偶者短期居住権の消滅を理由に、建物の返還を求めることができない。

2項

配偶者が相続の開始後に建物に附属させたものがある場合や相続の開始後に生じた損傷がある建物の返還をする場合は、民法第599条1項、2項(借主による収去等)ならびに第621条(賃借人の原状回復義務)の規定を準用する。

 

条文解説

配偶者短期居住権が消滅した場合には配偶者は建物を返還しなければいけません。

ここでいう配偶者短期居住権の消滅とは「期間満了」「配偶者の死亡」「民法第1038条第3項に基づく消滅の意思表示」「建物の全部滅失」などが想定されます。

なお、民法第1039条「配偶者居住権の取得による配偶者短期居住権の消滅」の場合、配偶者居住権が存続し、配偶者はそれを根拠に建物に住み続けることができるため、この条文の適用から除外されています。

 

ただし、配偶者が建物の所有権の持分をもっている場合、建物取得者は配偶者に対して配偶者短期居住権の消滅を理由に建物の明け渡しを求めることはできません。

配偶者が建物について持分をもっている限りは、共有者として共有物(建物)についてその持分に応じた使用をすることができるからです。(民法第249条)

 

2項

配偶者短期居住権を取得した配偶者が相続開始後にエアコンや照明器具など建物に附属させた物がある場合、配偶者短期居住権が消滅したことを理由に建物を明け渡さなければならないときは、配偶者はその附属させた物を収去する義務を負います。(民法第599条の準用)

ただし、壁紙にように建物から分離できないものや、分離するのに過分な費用がかかったりする場合にはこの限りではありません。(民法第599条但書の準用)

一方で、建物所有者から「この照明器具は残しておいてほしい」と言われても、配偶者は収去できる権利ももっています。(民法第599条2項の準用)

 

また相続開始後に生じた建物の損傷については、配偶者が原状に復する義務を負います。(民法第621条の準用)

ただし、台風や地震などの自然災害によって生じた損傷などのように配偶者に責任がない場合にはこの義務を負う必要はありません。(民法第621条但書の準用)

 

関連条文

民法第249条 共有物の使用

各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる。

 

民法第599条 借主による収去等

借主は、借用物を受け取った後にこれに附属させた物がある場合において、使用貸借が終了したときは、その附属させた物を収去する義務を負う。ただし、借用物から分離することができない物又は分離するのに過分の費用を要する物については、この限りでない。

第2項

借主は、借用物を受け取った後にこれに附属させた物を収去することができる。

 

民法第621条 賃借人の原状回復義務

賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。

 

民法第1038条 配偶者による使用

配偶者(配偶者短期居住権を有する配偶者に限る。以下この節において同じ。)は、従前の用法に従い、善良な管理者の注意をもって、居住建物の使用をしなければならない。

第2項

配偶者は、居住建物取得者の承諾を得なければ、第三者に居住建物の使用をさせることができない。

第3項

配偶者が前二項の規定に違反したときは、居住建物取得者は、当該配偶者に対する意思表示によって配偶者短期居住権を消滅させることができる。

 

民法第1039条 配偶者居住権の取得による配偶者短期居住権の消滅

配偶者が居住建物に係る配偶者居住権を取得したときは、配偶者短期居住権は、消滅する。

 

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