民法第979条 船舶遭難者の遺言
船舶が遭難した場合において、当該船舶中に在って死亡の危急に迫った者は、証人二人以上の立会いをもって口頭で遺言をすることができる。
2項
口がきけない者が前項の規定により遺言をする場合には、遺言者は、通訳人の通訳によりこれをしなければならない。
3項
前二項の規定に従ってした遺言は、証人が、その趣旨を筆記して、これに署名し、印を押し、かつ、証人の一人又は利害関係人から遅滞なく家庭裁判所に請求してその確認を得なければ、その効力を生じない。
4項
第九百七十六条第五項の規定は、前項の場合について準用する。
意訳
遭難した船に乗っている人に死亡の危機が迫っている場合、証人2人以上の立会いのもと、口頭によって遺言をすることができる。
2項
言語機能が不自由な方が1項の(遭難した船に乗船し死亡の危機が迫っている)ケースによって遺言を遺す場合、遺言者は手話などの通訳人の通訳を通して遺言をしなければならない。
3項
1項、2項のルールに従ってされた遺言は、証人が遺言の趣旨を筆記、署名、押印をした後、遅滞なく証人の1人または利害関係人が家庭裁判所に請求してその確認を得なければ、遺言書としての効力が生じない。
4項
民法第976条5項の規定はこの条文の3項の場合に準用する。
★注★
準用の「準」は訓読みで「なぞらえる」と読みます。
つまり、976条5項をこの条文でも「なぞらえて適用する」という意味になります。
条文解説
遺言書には2つの方式(普通方式と特別方式)と7つの種類があります。
本条で規定されている遺言書は特別方式の難船危急時遺言(下の表の⑦)に関するルールです。
この条文は船舶に乗船中の遭難者による危急時の遺言の方法を定めたルールです。
船舶に乗船中の人が行うことができる遺言の方式として「船舶隔絶地遺言」(民法第978条)が用意されていますが、遭難中で死亡の危機が迫っている場合には、この方式で遺言ができない可能性があります。(たとえば船長や船員が波に飲まれて証人の要件を満たす人がいない…など)
そこで、乗船中に遭難した人が船舶隔絶地遺言に代わって遺言ができるように設けられたのが「難船危急時遺言」です。
「難船危急時遺言」は、状況的に筆記をすることが困難であると思われるため、口頭のみによる遺言を認めています。
遺言を聞き取った証人は内容を記憶し、状況が落ち着いた後に書面に筆記をすることになります。
なお、作成された遺言は一般危急時遺言(民法第976条)と同様に家庭裁判所による確認が必要となりますが、難船危急時遺言は遺言作成後「遅滞なく」その請求を家庭裁判所に行わなければなりません。(一般危急時遺言では「20日以内」の規定が難船危急時遺言では「遅滞なく」に変更。)
関連条文
民法第976条 死亡の危急に迫った者の遺言
第4項
(前略)遺言の日から二十日以内に、証人の一人又は利害関係人から家庭裁判所に請求してその確認を得なければ、その効力を生じない。
第5項
家庭裁判所は、前項の遺言が遺言者の真意に出たものであるとの心証を得なければ、これを確認することができない。
民法第978条 在船者の遺言
船舶中に在る者は、船長又は事務員一人及び証人二人以上の立会いをもって遺言書を作ることができる。