民法第981条 署名又は押印が不能の場合
第九百七十七条から第九百七十九条までの場合において、署名又は印を押すことのできない者があるときは、立会人又は証人は、その事由を付記しなければならない。
意訳
第977条(伝染病隔離者の遺言)、第978条(在船者の遺言)、第979条(船舶遭難者の遺言)に規定された方式によって遺言を遺す場合において、署名または押印をすることが出来ない人がいるときは、立会人または証人はその理由を記載しなければならない。
条文解説
特別な方式によって遺言を遺す場合の署名、押印に関する規定です。
上の表の「⑤一般隔絶地遺言」「⑥船舶隔絶地遺言」「⑦難船危急時遺言」の3つは、いずれも一般社会との交通が断たれた場所にいる人が遺言を遺す場面を想定しています。
立会人や証人も同じように交通手段が断たれている可能性があり、印鑑を持ち合わせていなかったり、あるいは、乗っている船が荒波に飲まれている最中で署名が出来なかったりと、署名・押印が出来ない理由が考えられます。
そこで、「⑤一般隔絶地遺言」「⑥船舶隔絶地遺言」「⑦難船危急時遺言」に限り、署名・押印ができなかった場合でも、その理由をきっちりと記載すれば有効な遺言として遺すことができると本条で定められました。
ただし、条文の解釈上、立会人または証人のいずれか1人は最低でも署名・押印をする必要があると考えられています。
したがって、立会人または証人は状況が落ち着いた後に書面に聞き取った遺言内容を筆記し、その後それに署名・押印をすることになります。
関連条文
民法第977条 伝染病隔離者の遺言
伝染病のため行政処分によって交通を断たれた場所に在る者は、警察官一人及び証人一人以上の立会いをもって遺言書を作ることができる。
民法第978条 在船者の遺言
船舶中に在る者は、船長又は事務員一人及び証人二人以上の立会いをもって遺言書を作ることができる。
民法第979条 船舶遭難者の遺言
船舶が遭難した場合において、当該船舶中に在って死亡の危急に迫った者は、証人二人以上の立会いをもって口頭で遺言をすることができる。
第2項
口がきけない者が前項の規定により遺言をする場合には、遺言者は、通訳人の通訳によりこれをしなければならない。
第3項
前二項の規定に従ってした遺言は、証人が、その趣旨を筆記して、これに署名し、印を押し、かつ、証人の一人又は利害関係人から遅滞なく家庭裁判所に請求してその確認を得なければ、その効力を生じない。
第4項
第九百七十六条第五項の規定は、前項の場合について準用する。