民法第1014条「特定財産に関する遺言の執行」

民法第1014条 特定財産に関する遺言の執行

前三条の規定は、遺言が相続財産のうち特定の財産に関する場合には、その財産についてのみ適用する。

2項

遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言(以下「特定財産承継遺言」という。)があったときは、遺言執行者は、当該共同相続人が第八百九十九条の二第一項に規定する対抗要件を備えるために必要な行為をすることができる。

3項

前項の財産が預貯金債権である場合には、遺言執行者は、同項に規定する行為のほか、その預金又は貯金の払戻しの請求及びその預金又は貯金に係る契約の解約の申入れをすることができる。ただし、解約の申入れについては、その預貯金債権の全部が特定財産承継遺言の目的である場合に限る。

4項

前二項の規定にかかわらず、被相続人が遺言で別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

 

意訳

民法第1011条「相続財産の目録の作成」、1012条「遺言執行者の権利義務」、1013条「遺言の執行の妨害行為の禁止」の規定は、全遺産のうち特定の遺産について遺言書に書かれている場合には、書かれた遺産についてのみ適用する。

2項

特定の遺産を相続人の1人または複数人に承継させる旨の遺言書がある場合には、遺言執行者はその相続人が民法第899条の2第1項「共同相続における権利の承継の対抗要件」に規定する対抗要件を備えるために必要な行為をすることができる。

3項

2項の場合において、特定の遺産が預貯金である場合には、対抗要件を備える行為のほかに、その預貯金の払戻しの請求や解約の申出をすることができる。

ただし、解約についてはその口座の全額が遺言によって承継される場合しか行うことができない。

4項

2項、3項の規定に関わらず、遺言書に別の方法が記載されている場合はそれを優先する。

 

 

条文解説

この民法第1014条は遺言執行者の権限とその内容について規定された条文です。

これまで明記されていなかった遺言執行者の権限を明確化するため、第2項~第4項が2019年の法改正により追加されました。

 

第1項は遺言執行者の権限の範囲を示した規定です。

遺言書を書いた人の全財産のうち、特定の財産(不動産や銀行預金など)について遺言書に書かれている場合は、遺言執行者は書かれている財産についてのみ、その役割の権利と義務を負います。

たとえば、第1011条「相続財産の目録の作成」については、遺言書に書かれている財産についてのみ作成すればよく、全財産の目録を作る必要はありません。

 

2項

遺言執行者の権限に「対抗要件を備えるために必要な行為」が含まれることを明確化した条文です。

 

まずおさえておかなければならないのは、民法第899条の2第1項「共同相続における権利の承継の対抗要件」の規定です。(下記「関連条文」参照)

これは相続人が複数人いるケースにおいて、特定の遺産を自己の法定相続分を超えて相続する場合には“超えた部分”については、登記や登録といった対抗要件を備えないと、その権利を主張できないというルールです。

たとえば、亡くなった人の子2人が相続人である場合に『自宅の土地と建物を長男に相続させる』という遺言書があったとき、その土地と建物を長男が単独で相続すると、法定相続分(この場合は2分の1)を超えて取得することになります。

そして、このような場合には長男は自分の単独名義で相続登記を済ませておかなければ、その権利を主張することができないわけです。

 

このように、特定の遺産を特定の相続人に取得させることを指定する旨の遺言書がある場合には、遺言執行者は権限として「相続登記」や「動産の引渡し」といった、対抗要件を備えるための行為をすることができます。

 

3項

遺言書に預貯金の承継に関する内容が記載されている場合の遺言執行者の権限について規定された条文です。

具体的には「対抗要件を備える行為」「預貯金の払戻し」「口座の解約」の3つです。

 

この場合の「対抗要件を備える行為」とは、民法第467条「債権の譲渡の対抗要件」に規定がある『預貯金債権が(亡くなった)名義人から相続人に移った』という旨を債務者(金融機関)へ通知することです。

また、遺言執行者は相続人に代わって預貯金の払戻しを請求する権限や口座を解約する権限もあることが明記されています。

ただし、口座に150万円あるのに対し『100万円を長男に相続させる』という遺言が出てきた場合のように、遺言を執行した後に口座に残高が残ってしまう場合にはその口座の解約をすることはできません。

 

4項

遺言書のなかで、遺言執行者の権限とその内容について2項~3項とは異なることが書かれている場合には、その遺言書の内容が優先されます。

 

関連条文

民法第1011条 相続財産の目録の作成

遺言執行者は、遅滞なく、相続財産の目録を作成して、相続人に交付しなければならない。

第2項

遺言執行者は、相続人の請求があるときは、その立会いをもって相続財産の目録を作成し、又は公証人にこれを作成させなければならない。

 

民法第1012条 遺言執行者の権利義務

遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。

第2項

遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる。

第3項

第六百四十四条、第六百四十五条から第六百四十七条まで及び第六百五十条の規定は、遺言執行者について準用する。

 

民法第1013条 遺言の執行の妨害行為の禁止

遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。

第2項

前項の規定に違反してした行為は、無効とする。ただし、これをもって善意の第三者に対抗することができない。

第3項

前二項の規定は、相続人の債権者(相続債権者を含む。)が相続財産についてその権利を行使することを妨げない。

 

民法第899条の2 共同相続における権利の承継の対抗要件

相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第九百一条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。

 

民法第467条 債権の譲渡の対抗要件

債権の譲渡(現に発生していない債権の譲渡を含む。)は、譲渡人が債務者に通知をし、又は債務者が承諾をしなければ、債務者その他の第三者に対抗することができない。

 

 

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