民法第897条の2「相続財産の保存」

民法第897条の2 相続財産の保存

家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、いつでも、相続財産の管理人の選任その他の相続財産の保存に必要な処分を命ずることができる。ただし、相続人が一人である場合においてその相続人が相続の単純承認をしたとき、相続人が数人ある場合において遺産の全部の分割がされたとき、又は第九百五十二条第一項の規定により相続財産の清算人が選任されているときは、この限りでない。

第2項

第二十七条から第二十九条までの規定は、前項の規定により家庭裁判所が相続財産の管理人を選任した場合について準用する。

 

意訳

利害関係人または検察官の請求があった場合、家庭裁判所は“いつでも”相続財産管理人の選任など、相続財産の保存に必要な処分を命ずることができる。(ただし下記の場合は除く)

・相続権をもつ人が1人しかいない場合で、その相続人が相続財産を全て相続する場合
・相続権をもつ人が複数人いる場合で、全ての相続財産が遺産分割された場合
・民法第952条(相続財産の清算人の選任)の規定に基づいて相続財産精算人が選任されている場合

第2項

第1項の規定により家庭裁判所が相続財産管理人を選任した場合は、民法第27条~29条のルールを当てはめて適用する。

 

条文解説

本条は相続財産(遺産)の管理について規定された条文で、2023年4月1日に施行されました。

近年では土地の所有者が亡くなった後、相続人がその管理を適切に行わず近隣に迷惑をかけてしまったり、登記を長期間更新しなかったために権利をもつ人が何十人にも膨れ上がってしまうなど、遺産の保存・管理に対するルール作りの必要性が高まってきました。

そこで法改正により本条で規定する『相続財産管理制度』が新たに設けられることになりました。

 

この制度ができる前までも相続財産の保存・管理に関する制度はいくつかありましたが、それらの制度は相続の各場面によって使い分けられるものであり、制度が用意されていない場面では保存・管理に関するルールがなく、いわゆる“歯抜け状態”となっていました。

この“歯抜け状態”を解消することを目的に、統一的な相続財産の保存制度をつくるために本制度が設けられました。

具体的に歯抜けになっていたのは「単純承認後から遺産分割前までの間」と「相続人が明らかでない場合」といった場面です。

したがって、この制度は「相続人が相続財産を適切に保存しない場合」や「相続人が明らかでないことによって相続財産の価値を維持することが難しい場合」などでも使うことができるようになりました。

 

第2項

この制度によって選任された相続財産管理人は保存行為と相続財産の性質を変えない範囲での利用・改良行為のみを行うことができます。

もし、これを超える行為が必要なときは、家庭裁判所の許可を得なければなりません(民法第28条の準用)

また、家庭裁判所は相続財産の中から相当な報酬を相続財産管理人に与えることができます(民法第29条の準用)

 

 

関連条文

民法第952条 相続財産の清算人の選任

前条の場合には、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、相続財産の清算人を選任しなければならない。

 

民法第951条 相続財産法人の成立

相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は、法人とする。

 

民法第27条 管理人の職務

前二条の規定により家庭裁判所が選任した管理人は、その管理すべき財産の目録を作成しなければならない。この場合において、その費用は、不在者の財産の中から支弁する。

2項

不在者の生死が明らかでない場合において、利害関係人又は検察官の請求があるときは、家庭裁判所は、不在者が置いた管理人にも、前項の目録の作成を命ずることができる。

3項

前二項に定めるもののほか、家庭裁判所は、管理人に対し、不在者の財産の保存に必要と認める処分を命ずることができる。

 

民法第28条 管理人の権限

管理人は、第百三条に規定する権限を超える行為を必要とするときは、家庭裁判所の許可を得て、その行為をすることができる。不在者の生死が明らかでない場合において、その管理人が不在者が定めた権限を超える行為を必要とするときも、同様とする。

 

民法第29条 管理人の担保提供及び報酬

家庭裁判所は、管理人に財産の管理及び返還について相当の担保を立てさせることができる。

2項

家庭裁判所は、管理人と不在者との関係その他の事情により、不在者の財産の中から、相当な報酬を管理人に与えることができる。

 

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