民法第1029条 審判による配偶者居住権の取得
遺産の分割の請求を受けた家庭裁判所は、次に掲げる場合に限り、配偶者が配偶者居住権を取得する旨を定めることができる。
一 共同相続人間に配偶者が配偶者居住権を取得することについて合意が成立しているとき。
二 配偶者が家庭裁判所に対して配偶者居住権の取得を希望する旨を申し出た場合において、居住建物の所有者の受ける不利益の程度を考慮してもなお配偶者の生活を維持するために特に必要があると認めるとき(前号に掲げる場合を除く。)。
意訳
家庭裁判所は次の場合に限り、配偶者居住権を取得させる旨の審判を下すことができる。
1.相続人同士の間で配偶者に配偶者居住権を取得させることの合意がとれている場合
2.配偶者が配偶者居住権の取得を希望した場合に、「配偶者居住権を取得させる必要性」と「建物所有者が受ける不利益」のバランスを考え、前者を選択すべきと認めた場合
条文解説
遺産分割審判のなかで、家庭裁判所が配偶者居住権を取得させる旨の審判を下すことができる2つのケースについて規定された条文です。
一つ目は『相続人同士の間で配偶者に配偶者居住権を取得させることの合意がとれている』ケースです。
当事者同士で合意が成立している話をわざわざ家庭裁判所がひっくり返す必要はありませんので、当然と言えば当然の規定です。
二つ目は『建物の所有者の受ける不利益の程度を考慮しても、配偶者居住権の取得が配偶者の生活を維持するために特に必要があると認められる』ケースです。
このケースは、相続人同士の間で配偶者居住権の取得について合意がされていない場合において、配偶者が配偶者居住権の取得を希望していることが前提となります。
所有者にとっては、被相続人の配偶者が終身にわたり自分が所有する家に無償で住み続けられることは大きな負担となりかねません。
そこで「建物の所有者の受ける不利益」を一つの判断材料として示したうえで、それでもなお「特に必要があると認められる」場合には、家庭裁判所は配偶者居住権を取得させる旨の審判を下すことができるとしました。
「特に必要があると認められる場合」の規定は設けられていませんが、建物を相続する人の意向や維持費などの金銭面など、最終的には遺産分割の全体のバランスを総合的にみたうえでの判断になると思われます。