民法第997条 相続財産に属しない権利の遺贈
相続財産に属しない権利を目的とする遺贈が前条ただし書の規定により有効であるときは、遺贈義務者は、その権利を取得して受遺者に移転する義務を負う。
2項
前項の場合において、同項に規定する権利を取得することができないとき、又はこれを取得するについて過分の費用を要するときは、遺贈義務者は、その価額を弁償しなければならない。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
意訳
民法第996条但書が適用され、他人のものを目的物とする遺贈が有効となった場合、遺贈義務者はその目的物を取得し受遺者に移転する義務を負う。
2項
遺贈義務者が目的物を取得できない場合や取得するのに相当な費用がかかる場合には、目的物を取得、移転する代わりに受遺者に対して目的物に相当する価額を支払わなければならない。
ただし、遺言書にこれとは異なる方法が記載されている場合はそれに従う。
条文解説
民法第996条後半部分が適用され、他人のものを目的物とする遺贈が有効となった場合、遺贈義務者(亡くなった方の相続人や遺言執行者など)はこれを取得して受遺者へ移転する義務を負うことが定められたルールです。
たとえば『○○所有の土地を孫に遺贈する。遺言執行者はこの土地を取得すること』と遺言書に書かれていた場合、遺言執行者は遺産のなかから費用を捻出し、指定された土地を取得、受遺者(遺贈を受ける人)に移転させなければなりません。
2項
しかし、1項のルールは遺言者、遺言執行者、受遺者側の都合であって、遺贈の目的物の所有者には関係のない話です。
遺言執行者が所有者に「土地を売ってください」と言いに行ったところで所有者はこの申出を拒否することも当然考えられます。
このように遺贈の目的物を取得することができない場合、遺贈義務者は受遺者に対して土地の価額を弁償しなければなりません。
また、目的物を取得するにあたって高額な費用が発生する場合も同様です。
条文中の「過分の費用を要するとき」とは、相続財産から法定相続人の遺留分(最低限保障されている取り分)を除いた額を上限額とし、目的物を取得するにあたってこれを超える費用が必要になる場合のことを指します。
この場合には遺贈義務者は目的物に相当する価額または先述の上限額を受遺者に対して支払わなければなりません。
ただし、遺言書のなかで『もし指定した土地を取得できないときは、似た条件の他の土地を取得すること』や『取得できなかったとしても遺贈義務者は弁償をしなくてもよい』というように条文の規定以外のことが書かれていた場合には、その内容に従うことになります。
関連条文
民法第996条 相続財産に属しない権利の遺贈
遺贈は、その目的である権利が遺言者の死亡の時において相続財産に属しなかったときは、その効力を生じない。ただし、その権利が相続財産に属するかどうかにかかわらず、これを遺贈の目的としたものと認められるときは、この限りでない。