民法第899条の2「共同相続における権利の承継の対抗要件」

民法第899条の2 共同相続における権利の承継の対抗要件

相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第九百一条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。

第2項

前項の権利が債権である場合において、次条及び第九百一条の規定により算定した相続分を超えて当該債権を承継した共同相続人が当該債権に係る遺言の内容(遺産の分割により当該債権を承継した場合にあっては、当該債権に係る遺産の分割の内容)を明らかにして債務者にその承継の通知をしたときは、共同相続人の全員が債務者に通知をしたものとみなして、同項の規定を適用する。

 

意訳

相続による権利の承継については、遺産分割や遺言による指定などの方法を問わず、法定相続分を超える部分の権利の承継については登記や登録などの対抗要件を備えなければ、承継した権利について第三者に主張することはできない。

 

第2項

相続によって法定相続分を超える割合で債権を承継した相続人がいる場合、その相続人が債権の承継に関する書面(遺言書や遺産分割協議書など)と合わせて、債務者に承継の通知をしたときは、相続人全員が債務者に通知をしたとみなして、その債権の承継を債務者に主張することができる。

 

 

条文解説

2019年7月1日に施行された条文です。

この条文は遺産分割や遺言書などによって、法定相続分を超える割合で遺産を相続する人が出てきたケースを想定しています。

この条文が施行される前までは、たとえば『自宅を長男に相続させる』という遺言書があった場合に、長男の相続分が法定相続分を超えたとしても、長男は相続登記(自宅不動産を長男名義に変える登記)を打たなくても、自己の権利を第三者に主張することが認められていました。

ところが、長男がいつまでも相続登記を打たない状態が続くと不動産の名義は被相続人のままで、第三者からすると誰が自宅を相続したのかが分かりません。

そこに「この家を買いたい」という人が現れた場合、誰に対して交渉をすればよいのか分からない、あるいは法定相続分どおりに遺産分割が行われたと思って長男以外の相続人と交渉してしまうなど、第三者が損害を被ってしまう可能性がありました。

 

そこでこの問題を解消するために、法定相続分を超える部分の権利の承継については対抗要件を備えなければ、その権利を第三者に対して主張できないこととしました。

つまり、今回のケースでは「長男が自宅不動産を相続したことを第三者に主張するためには、きちんと相続登記を打ちなさい」ということが明文化されたことになります。

 

第2項

相続によって法定相続分を超える割合で「債権」を承継した相続人がいる場合の規定です。

債権の譲渡に関しては民法第467条(下記「参考条文」参照)で、その対抗要件が規定されていますので、まずはこの条文をしっかりとおさえておく必要があります。

それによると、「譲渡人が債務者に通知」または「債務者が承諾」をしなければ、債権の譲渡を債務者ならびに第三者に主張することはできません。

また、内容証明郵便などの確定日付のある証書で「通知」「承諾」が行わなければ第三者に主張することもできません。

 

このルールがあるうえで、相続による債権の承継があった場合に備えなければならない対抗要件を規定したものが本項になります。

相続では、第467条でいう譲渡人が被相続人にあたりますが、すでに亡くなっているため、その権利を承継した共同相続人全員が被相続人に代わって「通知」をするか、あるいは債務者が「承諾」をしなければ債権の譲渡を債務者ならびに第三者に主張することができません。

ところが共同相続人のなかに手続きに非協力的な人がいる場合に全員の「通知」を出すことができず、対抗要件を備えることが困難なケースが考えられます。

そこで、このようなケースのなかで法定相続分を超える割合で「債権」を承継した相続人がいる場合に、その人が単独で「通知」を行う方法を作っておく必要が生まれました。

 

本項では相続によって法定相続分を超える割合で債権を承継した相続人がいる場合、その相続人が債権の承継に関する書面(遺言書や遺産分割協議書など)と合わせて、債務者に承継の通知をしたときは、相続人全員が債務者に通知をしたとみなして、その債権の承継を債務者に主張することができるとしました。

相続人が債権の承継を通知する際には、第三者に主張するためにも内容証明郵便などの確定日付のある証書で通知することが望ましいでしょう。

 

 

関連条文

民法第467条 債権の譲渡の対抗要件

債権の譲渡(現に発生していない債権の譲渡を含む。)は、譲渡人が債務者に通知をし、又は債務者が承諾をしなければ、債務者その他の第三者に対抗することができない。

第2項

前項の通知又は承諾は、確定日付のある証書によってしなければ、債務者以外の第三者に対抗することができない。

 

 

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