民法第936条 相続人が数人ある場合の相続財産の清算人
相続人が数人ある場合には、家庭裁判所は、相続人の中から、相続財産の清算人を選任しなければならない。
2項
前項の相続財産の清算人は、相続人のために、これに代わって、相続財産の管理及び債務の弁済に必要な一切の行為をする。
3項
第九百二十六条から前条までの規定は、第一項の相続財産の清算人について準用する。この場合において、第九百二十七条第一項中「限定承認をした後五日以内」とあるのは、「その相続財産の清算人の選任があった後十日以内」と読み替えるものとする。
意訳
限定承認を選択した場合において、相続人が複数いるときは家庭裁判所は相続人のなかから相続財産の清算人を選任する。
2項
家庭裁判所によって選任された相続財産の精算人は他の相続人のために相続財産の管理や債務の弁済に必要な行為をする。
3項
選任された相続財産の精算人は、民法926条~935条のルールに従わなければならない。
この場合、債権者への公告・催告について(927条1項)、「限定承認をした後5日以内」という部分を「その相続財産の清算人の選任があった後10日以内」と読み替えることとする。
条文解説
限定承認を選択した場合の相続財産の清算人に関するルールです。
限定承認を選択した場合で、相続人が複数いるときにその全員に相続財産の管理・精算を行わせると権限や責任の所在が不明確となり、債権者に不利益が生じるなどの問題が発生してしまいます。
そこで、相続人が複数いる場合には家庭裁判所が相続財産の清算人を選任することとしました。
選任の手続きは、限定承認を家庭裁判所に申し出た際に行われますので、改めて申立てを行う必要はありません。
2項
家庭裁判所によって選任された清算人は、他の相続人を代表して相続財産の管理や債務の弁済に必要な行為をする権限をもちます。
精算人選任後は、この清算人が先頭に立って債務の弁済などの清算を行うことになります。
3項
相続財産の精算人は、原則として民法に規定されている「限定承認を選択した場合のルール」(926条~935条)に従わなければなりません。
ただし、927条1項(相続債権者及び受遺者に対する公告及び催告)のルールについては、条文の「限定承認をした後5日以内」という部分を「その相続財産の清算人の選任があった後10日以内」と読み替えることができるという例外を設けています。
これは、相続財産清算人の選任の手続が必要となるため、公告を行うまでの期限を原則の5日から10日に伸ばす措置ということになります。
関連条文
民法第926条 限定承認者による管理
限定承認者は、その固有財産におけるのと同一の注意をもって、相続財産の管理を継続しなければならない。
第2項
第六百四十五条、第六百四十六条、第六百五十条第一項及び第二項の規定は、前項の場合について準用する。
民法第645条 受任者による報告
受任者は、委任者の請求があるときは、いつでも委任事務の処理の状況を報告し、委任が終了した後は、遅滞なくその経過及び結果を報告しなければならない。
民法第646条 受任者による受取物の引渡し等
受任者は、委任事務を処理するに当たって受け取った金銭その他の物を委任者に引き渡さなければならない。その収取した果実についても、同様とする。
2項
受任者は、委任者のために自己の名で取得した権利を委任者に移転しなければならない。
民法第650条 受任者による費用等の償還請求等
受任者は、委任事務を処理するのに必要と認められる費用を支出したときは、委任者に対し、その費用及び支出の日以後におけるその利息の償還を請求することができる。
2項
受任者は、委任事務を処理するのに必要と認められる債務を負担したときは、委任者に対し、自己に代わってその弁済をすることを請求することができる。この場合において、その債務が弁済期にないときは、委任者に対し、相当の担保を供させることができる。
民法第927条 相続債権者及び受遺者に対する公告及び催告
限定承認者は、限定承認をした後五日以内に、すべての相続債権者(相続財産に属する債務の債権者をいう。以下同じ。)及び受遺者に対し、限定承認をしたこと及び一定の期間内にその請求の申出をすべき旨を公告しなければならない。この場合において、その期間は、二箇月を下ることができない。
民法第928条 公告期間満了前の弁済の拒絶
限定承認者は、前条第一項の期間の満了前には、相続債権者及び受遺者に対して弁済を拒むことができる。
民法第929条 公告期間満了後の弁済
第九百二十七条第一項の期間が満了した後は、限定承認者は、相続財産をもって、その期間内に同項の申出をした相続債権者その他知れている相続債権者に、それぞれその債権額の割合に応じて弁済をしなければならない。ただし、優先権を有する債権者の権利を害することはできない。
民法第930条 期限前の債務等の弁済
限定承認者は、弁済期に至らない債権であっても、前条の規定に従って弁済をしなければならない。
第2項
条件付きの債権又は存続期間の不確定な債権は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って弁済をしなければならない。
民法第931条 受遺者に対する弁済
限定承認者は、前二条の規定に従って各相続債権者に弁済をした後でなければ、受遺者に弁済をすることができない。
民法第932条 弁済のための相続財産の換価
前三条の規定に従って弁済をするにつき相続財産を売却する必要があるときは、限定承認者は、これを競売に付さなければならない。ただし、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従い相続財産の全部又は一部の価額を弁済して、その競売を止めることができる。
民法第933条 相続債権者及び受遺者の換価手続への参加
相続債権者及び受遺者は、自己の費用で、相続財産の競売又は鑑定に参加することができる。この場合においては、第二百六十条第二項の規定を準用する。
民法第934条 不当な弁済をした限定承認者の責任等
限定承認者は、第九百二十七条の公告若しくは催告をすることを怠り、又は同条第一項の期間内に相続債権者若しくは受遺者に弁済をしたことによって他の相続債権者若しくは受遺者に弁済をすることができなくなったときは、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。第九百二十九条から第九百三十一条までの規定に違反して弁済をしたときも、同様とする。
第2項
前項の規定は、情を知って不当に弁済を受けた相続債権者又は受遺者に対する他の相続債権者又は受遺者の求償を妨げない。
第3項
第七百二十四条の規定は、前二項の場合について準用する。
民法第724条 不法行為による損害賠償請求権の期間の制限
不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。
民法第935条 公告期間内に申出をしなかった相続債権者及び受遺者
第九百二十七条第一項の期間内に同項の申出をしなかった相続債権者及び受遺者で限定承認者に知れなかったものは、残余財産についてのみその権利を行使することができる。ただし、相続財産について特別担保を有する者は、この限りでない。