民法第902条の2「相続分の指定がある場合の債権者の権利の行使」

民法第902条の2 相続分の指定がある場合の債権者の権利の行使

被相続人が相続開始の時において有した債務の債権者は、前条の規定による相続分の指定がされた場合であっても、各共同相続人に対し、第九百条及び第九百一条の規定により算定した相続分に応じてその権利を行使することができる。ただし、その債権者が共同相続人の一人に対してその指定された相続分に応じた債務の承継を承認したときは、この限りでない。

 

意訳

被相続人が亡くなった時にもっていた債務の債権者は、被相続人が遺言で相続分の指定を行っていた場合であっても、各相続人に対して法定相続分に応じてその権利を行使することができる。

ただし、債権者が指定された相続分に応じた債務の承継を承認したときは、その割合に応じて権利を行使することができる。

 

条文解説

2019年7月1日に施行された条文で、遺言によって相続分の指定が行われていた場合の債権者の権利行使に関するルールです。

 

例として、夫・妻・子の3人家族で夫が150万円の借金を残したまま亡くなったとします。

さらに夫は生前に遺言書で「遺産を妻に3分の2、子に3分の1ずつ相続させる」旨の遺言書を遺していたとします。(法定相続分は妻・子それぞれ2分の1ずつですが、遺言で相続分の指定を行ったケース。民法第902条

このような場合に夫に150万円を貸していた債権者はどの相続人にいくら返済の請求することができるのでしょうか。

 

条文によると原則として、たとえ相続分の指定が行われていたとしても、債権者は各相続人に対して法定相続分に応じて権利を行使することができるとしています。

すなわち、妻と子それぞれに対して法定相続分である2分の1ずつ、つまり75万円ずつを請求することができることになります。

相続分の指定とは債権者が関与しないところで行われるもので、債務者側で勝手に債務のあり方をコントロールされてしまうと、債権者にとっては不利益を受けることになりかねません。

そのため、たとえ相続分の指定があったとしても、債権者はそれを無視して法定相続分どおりに各相続人に対して請求することが認められています。

 

一方で債権者からすると、きちんと返済をする能力がある人に債務を承継してもらいたいと思いますので、多くの財産を相続した相続人に多くの請求をしたいと考えますよね。

そこで、その考えに沿って債権者が指定された相続分を受け入れた場合は、その割合に応じて各相続人に対して請求をすることができるとしました。(本条但書)

上記の例ですと、妻に指定相続分である3分の2にあたる100万円、子に3分の1にあたる50万円を請求することが認められます。

 

つまり、被相続人が生前に遺言で相続分の指定を行っていた場合には、債権者は「法定相続分に応じて請求する」か「指定された相続分に応じて請求する」の2択から権利行使の方法を選ぶことができることになります。

 

関連条文

民法第900条 法定相続分

同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。

一 子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各二分の一とする。
二 配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は、三分の二とし、直系尊属の相続分は、三分の一とする。
三 配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、四分の三とし、兄弟姉妹の相続分は、四分の一とする。
四 子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。

 

民法第901条 代襲相続人の相続分

第八百八十七条第二項又は第三項の規定により相続人となる直系卑属の相続分は、その直系尊属が受けるべきであったものと同じとする。ただし、直系卑属が数人あるときは、その各自の直系尊属が受けるべきであった部分について、前条の規定に従ってその相続分を定める。

第2項

前項の規定は、第八百八十九条第二項の規定により兄弟姉妹の子が相続人となる場合について準用する。

 

民法第887条 子及びその代襲者等の相続権

被相続人の子は、相続人となる。

第2項

被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。

第3項

前項の規定は、代襲者が、相続の開始以前に死亡し、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その代襲相続権を失った場合について準用する。

 

民法第889条 直系尊属及び兄弟姉妹の相続権

次に掲げる者は、第八百八十七条の規定により相続人となるべき者がない場合には、次に掲げる順序の順位に従って相続人となる。

一 被相続人の直系尊属。ただし、親等の異なる者の間では、その近い者を先にする。
二 被相続人の兄弟姉妹
第2項

第八百八十七条第二項の規定は、前項第二号の場合について準用する。

 

民法第891条 相続人の欠格事由

次に掲げる者は、相続人となることができない。

1号

故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者

2号

被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。

3号

詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者

4号

詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者

5号

相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者

 

民法第902条 遺言による相続分の指定

被相続人は、前二条の規定にかかわらず、遺言で、共同相続人の相続分を定め、又はこれを定めることを第三者に委託することができる。

第2項

被相続人が、共同相続人中の一人若しくは数人の相続分のみを定め、又はこれを第三者に定めさせたときは、他の共同相続人の相続分は、前二条の規定により定める。

 

 

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