民法第950条「相続人の債権者の請求による財産分離」

 

民法第950条 相続人の債権者の請求による財産分離

相続人が限定承認をすることができる間又は相続財産が相続人の固有財産と混合しない間は、相続人の債権者は、家庭裁判所に対して財産分離の請求をすることができる。

2項

第三百四条、第九百二十五条、第九百二十七条から第九百三十四条まで、第九百四十三条から第九百四十五条まで及び第九百四十八条の規定は、前項の場合について準用する。ただし、第九百二十七条の公告及び催告は、財産分離の請求をした債権者がしなければならない。

 

意訳

相続人が限定承認の選択をする可能性がある間、もしくは遺産が相続人本来の財産と分けて管理されているうちは、相続人の債権者は家庭裁判所に対して財産分離の請求をすることができる。

2項

民法第304条(物上代位)、第925条、第927条~934条、第943条~第945条、第948条のルールは、1項の場合に準用する。ただし、927条(相続債権者及び受遺者に対する公告及び催告)に規定されている公告および催告は、財産分離の請求をした債権者が行わなければならない。

 

条文解説

相続人の債権者が自らの権利を守るためのルールです。

相続人が限定承認をして借金などのマイナスの財産を相続することになった場合に、相続した借金と自分の借金をゴッチャにして管理されたりしてしまうと、相続人の資産状況が悪くなってしまい、元々存在していた相続人の債権者が債権を満額回収できない恐れがでてきてしまいます。

それを未然に防ぐために、相続人が限定承認の選択をする可能性がある間や相続した財産とが相続人がもともと持っていた財産とをきちんと分けて管理されている間(要するに相続人の資産状況が悪くなる前)ならば、相続人の債権者は財産分離の請求をすることができます。

 

2項

相続人の債権者が財産分離の請求をした場合でも、原則として相続債権者や受遺者が財産分離の請求を行った場合と同じルールを使うことになります。

ただし、927条に規定されている相続債権者および受遺者への公告(1項)および催告(3項)は、相続人ではなく、財産分離の請求をした債権者が行わなければなりません。

 

関連条文

民法第304条 物上代位

先取特権は、その目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができる。ただし、先取特権者は、その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない。

2項

債務者が先取特権の目的物につき設定した物権の対価についても、前項と同様とする。

 

民法第925条 限定承認をしたときの権利義務

相続人が限定承認をしたときは、その被相続人に対して有した権利義務は、消滅しなかったものとみなす。

 

民法第927条 相続債権者及び受遺者に対する公告及び催告

限定承認者は、限定承認をした後五日以内に、すべての相続債権者(相続財産に属する債務の債権者をいう。以下同じ。)及び受遺者に対し、限定承認をしたこと及び一定の期間内にその請求の申出をすべき旨を公告しなければならない。この場合において、その期間は、二箇月を下ることができない。

2項

前項の規定による公告には、相続債権者及び受遺者がその期間内に申出をしないときは弁済から除斥されるべき旨を付記しなければならない。ただし、限定承認者は、知れている相続債権者及び受遺者を除斥することができない。

3項

限定承認者は、知れている相続債権者及び受遺者には、各別にその申出の催告をしなければならない。

4項

第一項の規定による公告は、官報に掲載してする。

 

民法第928条 公告期間満了前の弁済の拒絶

限定承認者は、前条第一項の期間の満了前には、相続債権者及び受遺者に対して弁済を拒むことができる。

 

民法第929条 公告期間満了後の弁済

第九百二十七条第一項の期間が満了した後は、限定承認者は、相続財産をもって、その期間内に同項の申出をした相続債権者その他知れている相続債権者に、それぞれその債権額の割合に応じて弁済をしなければならない。ただし、優先権を有する債権者の権利を害することはできない。

 

民法第930条 期限前の債務等の弁済

限定承認者は、弁済期に至らない債権であっても、前条の規定に従って弁済をしなければならない。

2項

条件付きの債権又は存続期間の不確定な債権は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って弁済をしなければならない。

 

民法第931条 受遺者に対する弁済

限定承認者は、前二条の規定に従って各相続債権者に弁済をした後でなければ、受遺者に弁済をすることができない。

 

民法第932条 弁済のための相続財産の換価

前三条の規定に従って弁済をするにつき相続財産を売却する必要があるときは、限定承認者は、これを競売に付さなければならない。ただし、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従い相続財産の全部又は一部の価額を弁済して、その競売を止めることができる。

 

民法第933条 相続債権者及び受遺者の換価手続への参加

相続債権者及び受遺者は、自己の費用で、相続財産の競売又は鑑定に参加することができる。この場合においては、第二百六十条第二項の規定を準用する。

 

民法第934条 不当な弁済をした限定承認者の責任等

限定承認者は、第九百二十七条の公告若しくは催告をすることを怠り、又は同条第一項の期間内に相続債権者若しくは受遺者に弁済をしたことによって他の相続債権者若しくは受遺者に弁済をすることができなくなったときは、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。第九百二十九条から第九百三十一条までの規定に違反して弁済をしたときも、同様とする。

2項

前項の規定は、情を知って不当に弁済を受けた相続債権者又は受遺者に対する他の相続債権者又は受遺者の求償を妨げない。

3項

第七百二十四条の規定は、前二項の場合について準用する。

 

民法第943条 財産分離の請求後の相続財産の管理

財産分離の請求があったときは、家庭裁判所は、相続財産の管理について必要な処分を命ずることができる。

2項

第二十七条から第二十九条までの規定は、前項の規定により家庭裁判所が相続財産の管理人を選任した場合について準用する。

 

民法第944条 財産分離の請求後の相続人による管理

相続人は、単純承認をした後でも、財産分離の請求があったときは、以後、その固有財産におけるのと同一の注意をもって、相続財産の管理をしなければならない。ただし、家庭裁判所が相続財産の管理人を選任したときは、この限りでない。

2項

第六百四十五条から第六百四十七条まで並びに第六百五十条第一項及び第二項の規定は、前項の場合について準用する。

 

民法第945条 不動産についての財産分離の対抗要件

財産分離は、不動産については、その登記をしなければ、第三者に対抗することができない。

 

民法第948条 相続人の固有財産からの弁済

財産分離の請求をした者及び配当加入の申出をした者は、相続財産をもって全部の弁済を受けることができなかった場合に限り、相続人の固有財産についてその権利を行使することができる。この場合においては、相続人の債権者は、その者に先立って弁済を受けることができる。

 

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