民法第937条 法定単純承認の事由がある場合の相続債権者
限定承認をした共同相続人の一人又は数人について第九百二十一条第一号又は第三号に掲げる事由があるときは、相続債権者は、相続財産をもって弁済を受けることができなかった債権額について、当該共同相続人に対し、その相続分に応じて権利を行使することができる。
意訳
限定承認を選択した相続人が相続財産の一部または全部を処分したり(921条1号)、相続財産を隠したり、消費したり、わざと目録に記載しなかったりした(921条3号)ことで、相続債権者が相続財産のなかから弁済を受けることができなかった場合は、その相続人に対して弁済を受けることができなかった債権額を請求することができる。
条文解説
限定承認を選択したものの、相続人のなかに法定単純承認(921条)に該当する行為を行った者がいる場合の相続債権者の権利について書かれたルールです。
限定承認とは相続人全員で行わなければならないチームプレーですが、一部の相続人が個人プレーをしてしまったことで、相続債権者が弁済を受けられないリスクが生まれてしまいます。
このように相続人が個人プレーに走ってしまった結果、相続財産からの弁済を受けられなくなってしまった相続債権者がいる場合は、その債権者は弁済してもらえなかった額を個人プレーに走った相続人に対して請求することができるとし、請求された相続人は自身の財産から弁済を行わなければなりません。
関連条文
民法第921条 法定単純承認
1号
相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第六百二条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
3号
相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。
民法第602条 短期賃貸借
処分の権限を有しない者が賃貸借をする場合には、次の各号に掲げる賃貸借は、それぞれ当該各号に定める期間を超えることができない。契約でこれより長い期間を定めたときであっても、その期間は、当該各号に定める期間とする。