民法第966条 被後見人の遺言の制限
被後見人が、後見の計算の終了前に、後見人又はその配偶者若しくは直系卑属の利益となるべき遺言をしたときは、その遺言は、無効とする。
2項
前項の規定は、直系血族、配偶者又は兄弟姉妹が後見人である場合には、適用しない。
意訳
成年後見を受けている人が、後見人や後見人の配偶者、後見人の子や孫に利益となる旨の遺言をした場合、その遺言は無効とする。
2項
被後見人の直系血族(親や子や孫)、被後見人の配偶者、被後見人の兄弟姉妹が後見人に就いている場合は、彼らに利益となる遺言をしたとしても無効とはならない。
条文解説
一定の要件を満たした場合、成年後見を受けていたとしても遺言を書くことは可能です。(民法第973条)
本条は家族や親族以外の人が後見人に選任されている場合に適用される規定です。
後見が開始された時点で、被後見人の判断能力は低下しているものと想像できますが、そのような状況では後見人が被後見人を騙して、自分や自分の身内に有利となる内容(「遺産を後見人に遺贈する」など)の遺言書を書かせてしまう恐れがあります。
このようなことが行われてしまうと、遺言制度の信憑性や円滑な遺産相続が損なわれてしまいます。
そこで、家族や親族以外の者が後見人として就いた場合、その後見人自身や後見人の身内(配偶者や子など)にとって利益となる遺言を残したとしてもその遺言は無効となります。
2項
被後見人の家族、親族が後見人に就いている場合の規定です。
1項とは異なり、後見人が被後見人を騙して後見人だけが有利となる遺言書を書かせる恐れが少ないことから、遺言の内容に制限は加えられていません。
また、被後見人の直系血族、被後見人の配偶者、被後見人の兄弟姉妹は被後見人が亡くなった後、相続人となる可能性が高く、遺産分割の当事者となるため、後見人だけが有利となる旨の遺言を無効としなくても大きな弊害がないこともこの規定が設けられた一つと考えられています。
関連条文
民法第973条 成年被後見人の遺言
成年被後見人が事理を弁識する能力を一時回復した時において遺言をするには、医師二人以上の立会いがなければならない。
第2項
遺言に立ち会った医師は、遺言者が遺言をする時において精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状態になかった旨を遺言書に付記して、これに署名し、印を押さなければならない。ただし、秘密証書による遺言にあっては、その封紙にその旨の記載をし、署名し、印を押さなければならない。