民法第1036条 使用貸借及び賃貸借の規定の準用
第五百九十七条第一項及び第三項、第六百条、第六百十三条並びに第六百十六条の二の規定は、配偶者居住権について準用する。
意訳
民法第597条1項および3項(期間満了等による使用貸借の終了)、第600条(損害賠償及び費用の償還の請求権についての期間の制限)、第613条(転貸の効果)、第616条の2(賃借物の全部滅失等による賃貸借の終了)に規定されているルールは、配偶者居住権についても適用する。
条文解説
民法第597条1項および3項(期間満了等による使用貸借の終了)の準用
配偶者居住権は建物所有者と配偶者の間で存続期間を定めた場合は、その期間が満了することで終了します。
また、配偶者居住権は配偶者の死亡によっても終了します。
民法第600条(損害賠償及び費用の償還の請求権についての期間の制限)の準用
配偶者は配偶者居住権またはその目的物(建物)の性質によって定まった用法に従い、その物の使用及び収益をしなければなりません。(民法第594条1項)
ところが、配偶者がこれに反して損害を発生させた場合には建物所有者は配偶者に対して損害賠償を請求することができます。
この損害賠償の請求は建物所有者が建物の返還を受けたときから1年以内に行わなければなりません。
一方で、配偶者が建物の改良のために支出した金額や有益費がある場合には、配偶者は建物所有者に対してその償還を請求することができ、こちらも建物を返還した時から1年以内にその請求をしなければなりません。(民法第196条2項)
ただし、建物所有者が配偶者に対して損害賠償を請求する場合は、「定まった用法に従っていない使用をした時点」を起算点とする消滅時効(10年)にも注意をしなければなりません。
長期にわたり配偶者が建物を使用し、建物所有者が定まった用法に従っていないことに気が付くまでに10年が経過してしまった場合、それで時効の完成を認めてしまう(損害賠償が請求できない)と建物所有者にとっては酷な話になってしまいます。
そこで、建物の返還から1年を経過するまでの間は時効は完成しないこととなっています。
民法第613条(転貸の効果)の準用
配偶者が適法に建物を転貸したときは、転借人は建物所有者と配偶者との間の債務の範囲を限度として、建物所有者に対して直接債務を履行する義務を負います。(1項の準用)
また、配偶者居住権の存続期間が満了する前に建物所有者と配偶者が合意のうえで配偶者居住権を消滅させた場合であっても、配偶者から建物を借りた転借人には影響はなく、引き続き建物の使用・収益をすることができます。(3項の準用)
ただし、建物所有者と配偶者が合意のうえで配偶者居住権を消滅させた場合であっても、その時点で配偶者による用法違反・善管注意義務違反に基づく建物所有者からの配偶者居住権消滅請求(民法第1032条4項)が可能であった場合には、転借人は建物の使用・収益を継続することができなくなってしまいます。
民法第616条の2(賃借物の全部滅失等による賃貸借の終了)の準用
建物の全部が滅失してしまったり、使用・収益をすることができなくなった場合には配偶者居住権は消滅します。
関連条文
民法第 597条 期間満了等による使用貸借の終了
当事者が使用貸借の期間を定めたときは、使用貸借は、その期間が満了することによって終了する。
第3項
使用貸借は、借主の死亡によって終了する。
民法第600条 損害賠償及び費用の償還の請求権についての期間の制限
契約の本旨に反する使用又は収益によって生じた損害の賠償及び借主が支出した費用の償還は、貸主が返還を受けた時から一年以内に請求しなければならない。
第2項
前項の損害賠償の請求権については、貸主が返還を受けた時から一年を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
民法第613条 転貸の効果
賃借人が適法に賃借物を転貸したときは、転借人は、賃貸人と賃借人との間の賃貸借に基づく賃借人の債務の範囲を限度として、賃貸人に対して転貸借に基づく債務を直接履行する義務を負う。この場合においては、賃料の前払をもって賃貸人に対抗することができない。
第2項
前項の規定は、賃貸人が賃借人に対してその権利を行使することを妨げない。
第3項
賃借人が適法に賃借物を転貸した場合には、賃貸人は、賃借人との間の賃貸借を合意により解除したことをもって転借人に対抗することができない。ただし、その解除の当時、賃貸人が賃借人の債務不履行による解除権を有していたときは、この限りでない。
民法第616条の2 賃借物の全部滅失等による賃貸借の終了
賃借物の全部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合には、賃貸借は、これによって終了する。