民法第949条 財産分離の請求の防止等
相続人は、その固有財産をもって相続債権者若しくは受遺者に弁済をし、又はこれに相当の担保を供して、財産分離の請求を防止し、又はその効力を消滅させることができる。ただし、相続人の債権者が、これによって損害を受けるべきことを証明して、異議を述べたときは、この限りでない。
意訳
相続人はもともと持っていた財産のなかから相続債権者や受遺者に対して弁済をしたり、相当額の財産を担保に入れたりすることで、財産分離の請求を防止したり、既に下されている財産分離の命令を消滅させることができる。
ただし、相続人の債権者が損害を受けるような場合はそれを証明することで弁済や担保の提供を止めることができる。
条文解説
そもそも財産分離(民法第941条)は、相続債権者や受遺者が自己の利益を守るため、すなわち弁済をきっちり受けることを目的に請求がされます。
財産分離が請求されたときは原則として、相続債権者は相続財産のなかから弁済を受けることになります(民法第942条)が、そもそも相続債権者としては弁済を受けることさえできれば、その弁済金の出どころについては大きな問題ではなく、相続人がもともと持っていた財産から弁済を受けることも問題がないはずです。
弁済さえ受けることができれば、もはや財産分離を請求する意味がなくなります。
そこで、相続債権者や受遺者が相続人の本来の財産から弁済を受けたり、弁済を受けるだけの担保を取得した場合には、相続人は財産分離の請求を防止、消滅をすることができると定められました。
ただし、相続人が自身の財産のなかから弁済や担保の提供を行えば、当然相続人の財産が減ってしまいますので、その結果、相続人にも債権者がいる場合にはその債権者が不利益を被ってしまう恐れが生じます。
そのような場合はこの債権者を守るために、受けるであろう損害を証明し、異議申立てを行えば弁済や担保の提供を止めることができることになっています。
関連条文
民法第941条 相続債権者又は受遺者の請求による財産分離
相続債権者又は受遺者は、相続開始の時から三箇月以内に、相続人の財産の中から相続財産を分離することを家庭裁判所に請求することができる。相続財産が相続人の固有財産と混合しない間は、その期間の満了後も、同様とする。
第2項
家庭裁判所が前項の請求によって財産分離を命じたときは、その請求をした者は、五日以内に、他の相続債権者及び受遺者に対し、財産分離の命令があったこと及び一定の期間内に配当加入の申出をすべき旨を公告しなければならない。この場合において、その期間は、二箇月を下ることができない。
第3項
前項の規定による公告は、官報に掲載してする。
民法第942条 財産分離の効力
財産分離の請求をした者及び前条第二項の規定により配当加入の申出をした者は、相続財産について、相続人の債権者に先立って弁済を受ける。