民法第909条の2 遺産の分割前における預貯金債権の行使

民法第909条の2 遺産の分割前における預貯金債権の行使

各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち相続開始の時の債権額の三分の一に第九百条及び第九百一条の規定により算定した当該共同相続人の相続分を乗じた額(標準的な当面の必要生計費、平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額を限度とする。)については、単独でその権利を行使することができる。この場合において、当該権利の行使をした預貯金債権については、当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす。

 

意訳

各相続人は遺産である預貯金のうち、残高の3分の1に各相続人の法定相続分を掛け合わせた額(標準的な必要生活費、平均的な葬儀費など上限額150万円)を単独で引き出すことができる。

この場合、引き出したお金については遺産分割によって取得したものとみなす。

 

条文解説

2019年7月1日に施行された条文です。

原則として、被相続人名義の預貯金は名義人が亡くなった時点で相続人の共有状態となり、遺産分割が完了するまで勝手に引き出すことはできませんでした。

近年では家族葬の普及や葬儀の小規模化によって葬儀費用を抑える傾向にありますが、人が亡くなった直後というのは何かとまとまったお金が急に必要になることもあります。

ただ、被相続人名義の預貯金から当面の生活費や葬儀費を工面しようとしても、原則として相続人全員の合意をとって遺産分割が終わるまではそれができないことが問題となっていました。

せっかく「自分の葬儀代くらいは自分で・・・」と思ってコツコツ貯金していても、実際にはそこから葬儀費用を出せなかったんです。

 

そこでこの問題を解消するために、当面の生活費や葬儀代などでお金が必要となった場合に各相続人が単独で預貯金の引き出しができるように本条が制定されました。

 

各相続人が引き出すことができる金額は次の計算式によって決まります。
相続開始時の残高 × 1/3 × 引出しをする相続人の法定相続分

ただし、省令によって1つの金融機関から引き出せる上限額は150万円と定められています。

 

また、この制度を利用して被相続人名義の預貯金を引き出した相続人がいる場合は、そのお金は遺産分割によって取得したものとみなされますので、その他の遺産の分割の際には“先にもらった分”として考慮に入れなければなりません。

 

関連条文

民法第900条 法定相続分

同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。

一 子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各二分の一とする。
二 配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は、三分の二とし、直系尊属の相続分は、三分の一とする。
三 配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、四分の三とし、兄弟姉妹の相続分は、四分の一とする。
四 子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。

 

民法第901条 代襲相続人の相続分

第八百八十七条第二項又は第三項の規定により相続人となる直系卑属の相続分は、その直系尊属が受けるべきであったものと同じとする。ただし、直系卑属が数人あるときは、その各自の直系尊属が受けるべきであった部分について、前条の規定に従ってその相続分を定める。

第2項

前項の規定は、第八百八十九条第二項の規定により兄弟姉妹の子が相続人となる場合について準用する。

 

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