民法第1034条 居住建物の費用の負担
配偶者は、居住建物の通常の必要費を負担する。
2項
第五百八十三条第二項の規定は、前項の通常の必要費以外の費用について準用する。
意訳
その家に住むにあたって通常必要となる費用は配偶者が負担する。
2項
1項でいう「通常必要となる費用」以外の費用については、民法第583条2項(買戻しの実行)に規定されているルールを準用する。
条文解説
建物の「通常の必要費」は、配偶者居住権を取得した配偶者が負担をすることになります。
配偶者居住権は『無償で建物の使用・収益ができる権利』ですので、無償で建物を使わせてもらっている以上、通常発生しうる費用については使用・収益している配偶者が負担し、所有者にこれを請求することはできません。
ここでいう「通常の必要費」とは、建物の保存や管理を行うための費用のことを指し、たとえば建物の固定資産税や修繕費、不用品の撤去費用、借地の場合は地代がこれに含まれます。
2項
「通常必要となる費用」以外の費用には、建物の改良にかかった費用、地震や台風の被害によって必要となった大規模な修繕のための費用、または有益費などがこれに含まれます。
有益費とは建物の価値を増加させるために支出した費用のことを指し、たとえば断熱性の高い窓への取り替えや水回りの高性能システムへのリフォーム費用が該当します。
これらの費用を配偶者が支払った場合、その償還を所有者に請求することができるのは建物を返した時点で、そのタイミングで建物の価値が増加している場合には、「実際にかかった費用」または「価値が増加した分の金額」のいずれかを建物の所有者の選択で配偶者に返すことになります。
関連条文
民法第583条 買戻しの実行
2項
買主又は転得者が不動産について費用を支出したときは、売主は、第百九十六条の規定に従い、その償還をしなければならない。ただし、有益費については、裁判所は、売主の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる。
民法第196条 占有者による費用の償還請求
占有者が占有物を返還する場合には、その物の保存のために支出した金額その他の必要費を回復者から償還させることができる。ただし、占有者が果実を取得したときは、通常の必要費は、占有者の負担に帰する。
2項
占有者が占有物の改良のために支出した金額その他の有益費については、その価格の増加が現存する場合に限り、回復者の選択に従い、その支出した金額又は増価額を償還させることができる。ただし、悪意の占有者に対しては、裁判所は、回復者の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる。