民法第1032条 配偶者による使用及び収益
配偶者は、従前の用法に従い、善良な管理者の注意をもって、居住建物の使用及び収益をしなければならない。ただし、従前居住の用に供していなかった部分について、これを居住の用に供することを妨げない。
2項
配偶者居住権は、譲渡することができない。
3項
配偶者は、居住建物の所有者の承諾を得なければ、居住建物の改築若しくは増築をし、又は第三者に居住建物の使用若しくは収益をさせることができない。
4項
配偶者が第一項又は前項の規定に違反した場合において、居住建物の所有者が相当の期間を定めてその是正の催告をし、その期間内に是正がされないときは、居住建物の所有者は、当該配偶者に対する意思表示によって配偶者居住権を消滅させることができる。
意訳
配偶者は相続が発生する前と同じように、通常払わなければならない注意をしながら、居住建物の使用及び収益をしなければならない。
なお、相続開始前は居住用として使っていなかった部分については、これを新たに居住用として使ってもよい。
2項
配偶者居住権を他人に譲渡することはできない。
3項
配偶者は、建物の所有者の承諾を得なければ建物の増改築、または建物を第三者に賃貸することはできない。
4項
配偶者が注意義務を怠ったり、建物の所有者の承諾なしに増改築や賃貸を行った場合には、所有者は相当の期間を定めてその是正の催告をし、その期間内に是正がされないときは、配偶者に対する意思表示によって配偶者居住権を消滅させることができる。
条文解説
配偶者居住権とは『被相続人の配偶者が被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していた場合において、その居住していた建物の全部について無償で使用及び収益をする権利』のことをいいます(民法第1028条)
この条文では配偶者に対して、その家に住み続けるうえでは『相続開始前と同じように住みなさい』ということを求めています。
居住権はあるけど、名義(所有権)は自分ではないからという理由でいい加減な管理をしないように釘をさしています。
また、配偶者居住権は建物全部に権利が及ぶため、たとえば建物の一部を店舗として使用していたというように、相続開始前は居住用として使っていなかった部分については、これを新たに居住用として使用することが認められます。
2項
配偶者居住権は被相続人の死後、その配偶者の生活に必要な『家』と『できるだけ多くのお金』を取得させることを目的として設定されるため、その性質上、被相続人の配偶者のみが取得できる権利となります。
したがって、配偶者居住権を他人に譲渡することは認められません。
3項
配偶者居住権を取得した配偶者は、建物の所有者の承諾がなければ建物の増改築をすることはできません。
『増築』とは、建物の床面積を広くすることを指し、もともとの建物に建て増しをすることや平屋だったものを2階建てにすることがこれに該当します。
『改築』とは、床面積は変えずに間取りを変更することを指し、部屋数を変えたり、和室を洋室に変えたりすることをいいます。なお、元々の建物を取り壊し、用途や規模が変わらない建替えも改築に含まれます。
たとえばバリアフリー工事が改築にあたるかどうかなど、配偶者と建物所有者の間で認識が異なるケースもありますので、トラブルを避けるためにはしっかりとコミュニケーションをとっておくことが大切です。
また、配偶者は建物の所有者の承諾がない限り、第三者に賃貸(建物の使用もしくは収益をさせること)はできません。
たとえば、配偶者が配偶者居住権が設定された家とは別の家に住むことになったり、老人ホームに入居することになった場合など、その家を賃貸に出そうと考えるケースもあります。
この場合も必ず、建物の所有者にその旨の承諾を取っておく必要があります。
4項
配偶者が本条第1項や3項に定められている規定に違反した場合にとることができる建物所有者の対応に関するルールです。
配偶者による規定違反が認められた場合、建物の所有者は配偶者に対して相当の期間を定めたうえで、その是正の催告をすることができます。
それでも、配偶者が応じずに期間内に是正がされないときは、配偶者に対する意思表示によって配偶者居住権を消滅させることができるようになります。
配偶者居住権が消滅してしまうと、配偶者は無償で生涯その家に住み続けることが難しくなってしまいますので注意しましょう。
関連条文
民法第1028条 配偶者居住権
被相続人の配偶者(以下この章において単に「配偶者」という。)は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していた場合において、次の各号のいずれかに該当するときは、その居住していた建物(以下この節において「居住建物」という。)の全部について無償で使用及び収益をする権利(以下この章において「配偶者居住権」という。)を取得する。ただし、被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合にあっては、この限りでない。
一 遺産の分割によって配偶者居住権を取得するものとされたとき。
二 配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき。
第2項
居住建物が配偶者の財産に属することとなった場合であっても、他の者がその共有持分を有するときは、配偶者居住権は、消滅しない。
第3項
第九百三条第四項の規定は、配偶者居住権の遺贈について準用する。
民法第903条 特別受益者の相続分
共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。
第4項
婚姻期間が二十年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について第一項の規定を適用しない旨の意思を表示したものと推定する。