民法第934条「不当な弁済をした限定承認者の責任等」

 

民法第934条 不当な弁済をした限定承認者の責任等

限定承認者は、第九百二十七条の公告若しくは催告をすることを怠り、又は同条第一項の期間内に相続債権者若しくは受遺者に弁済をしたことによって他の相続債権者若しくは受遺者に弁済をすることができなくなったときは、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。第九百二十九条から第九百三十一条までの規定に違反して弁済をしたときも、同様とする。

2項

前項の規定は、情を知って不当に弁済を受けた相続債権者又は受遺者に対する他の債権者又は受遺者の求償を妨げない。

3項

第七百二十四条の規定は、前二項の場合について準用する。

 

意訳

「相続債権者及び受遺者に対する公告及び催告」(民法第927条)を行わなかった場合や、公告期間が満了する前に特定の相続債権者や受遺者に弁済を行ったことで他の相続債権者や受遺者が弁済を受けられなくなってしまった場合には、限定承認者は損害を賠償する責任を負う。

民法第929条第930条第931条までのルールに違反して弁済をし、損害が発生した場合も限定承認者は賠償をする責任を負う。

 

2項

ルール違反を知って弁済を受けた相続債権者や受遺者がいる場合、他の相続債権者や受遺者は不当な弁済を受けた相続債権者や受遺者に対して求償することができる。

 

3項

1項、2項に規定されているようなことがあった場合には「不法行為による損害賠償請求権の期間の制限」(民法第724条)のルールを準用する。

 

条文解説

ルールに反して弁済が行われた場合に限定承認者が負う責任について書かれたルールです。

限定承認を選択した場合にとらなければならない手続き(公告、催告)を怠ったり、ある特定の債権者だけに優先的に弁済を行ったことで他の債権者が弁済を受けられないような場合、限定承認者は生じた損害に対して賠償を負わなければなりません。

ルール違反をしているのですから、当然負うべき責任と言えます。

 

2項

ルールに反して行われた弁済があった場合、損害を受けた他の債権者を救う必要があります。

本来ならばルール違反をした限定承認者に対して求償できるだけでよいはずですが、ルール違反を知って弁済を受けた債権者に対しても求償ができることが規定されています。

ルール違反を知って弁済を受けたことに対して、この債権者にも一定の責任を負わせています。

 

3項

1項や2項で規定されているルール違反があった場合の損害賠償請求権や求償権の消滅時効について書かれています。

不法行為の損害賠償請求権は損害および加害者を知ったときから3年、不法行為の時から20年で消滅します。(民法第724条)

したがって、この条文に規定されている権利(損害賠償請求権や求償権)も同じ期間で消滅します。

 

関連条文

民法第927条 相続債権者及び受遺者に対する公告及び催告

限定承認者は、限定承認をした後五日以内に、すべての相続債権者(相続財産に属する債務の債権者をいう。以下同じ。)及び受遺者に対し、限定承認をしたこと及び一定の期間内にその請求の申出をすべき旨を公告しなければならない。この場合において、その期間は、二箇月を下ることができない。

 

民法第929条 公告期間満了後の弁済

第九百二十七条第一項の期間が満了した後は、限定承認者は、相続財産をもって、その期間内に同項の申出をした相続債権者その他知れている相続債権者に、それぞれその債権額の割合に応じて弁済をしなければならない。ただし、優先権を有する債権者の権利を害することはできない。

 

民法第930条 期限前の債務等の弁済

限定承認者は、弁済期に至らない債権であっても、前条の規定に従って弁済をしなければならない。

第2項

条件付きの債権又は存続期間の不確定な債権は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って弁済をしなければならない。

 

民法第931条 受遺者に対する弁済

限定承認者は、前二条の規定に従って各相続債権者に弁済をした後でなければ、受遺者に弁済をすることができない。

 

民法第724条 不法行為による損害賠償請求権の期間の制限

不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。

 

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