民法第983条 特別の方式による遺言の効力
第九百七十六条から前条までの規定によりした遺言は、遺言者が普通の方式によって遺言をすることができるようになった時から六箇月間生存するときは、その効力を生じない。
意訳
「特別な方式による遺言」をした時でも、遺言をした人が「普通方式による遺言」を遺せる状態になった時から6ヶ月生存した場合には、先の「特別な方式」によって遺した遺言の効力は生じない。
条文解説
原則として、遺言は「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」のいずれかの普通方式のルールに従って書かなければなりません。
民法第976条~982条に規定されている特別方式による遺言は、普通方式のルールで遺言ができない場合の例外として規定されているもので、作成ルールも普通方式に比べると緩やかになっています。
しかし、ルールが緩やかになっている分、作成された遺言が本当に遺言者の遺志に基づくものであることを担保しなければならないという問題が生まれます。
そこで本条では、「特別な方式による遺言」を作成した場合でも、遺言者が「普通方式による遺言」を遺せる状態になって6ヶ月経過した時点で「特別な方式による遺言」を失効させることとしました。
いつまでも例外的なルールで作成された遺言を認めることはせず、原則ルール(普通方式による遺言)で作成できる状態になったのなら、原則に立ち返りましょうということになります。
関連条文
民法第976条 死亡の危急に迫った者の遺言
疾病その他の事由によって死亡の危急に迫った者が遺言をしようとするときは、証人三人以上の立会いをもって、その一人に遺言の趣旨を口授して、これをすることができる。この場合においては、その口授を受けた者が、これを筆記して、遺言者及び他の証人に読み聞かせ、又は閲覧させ、各証人がその筆記の正確なことを承認した後、これに署名し、印を押さなければならない。
第2項
口がきけない者が前項の規定により遺言をする場合には、遺言者は、証人の前で、遺言の趣旨を通訳人の通訳により申述して、同項の口授に代えなければならない。
第3項
第一項後段の遺言者又は他の証人が耳が聞こえない者である場合には、遺言の趣旨の口授又は申述を受けた者は、同項後段に規定する筆記した内容を通訳人の通訳によりその遺言者又は他の証人に伝えて、同項後段の読み聞かせに代えることができる。
第4項
前三項の規定によりした遺言は、遺言の日から二十日以内に、証人の一人又は利害関係人から家庭裁判所に請求してその確認を得なければ、その効力を生じない。
第5項
家庭裁判所は、前項の遺言が遺言者の真意に出たものであるとの心証を得なければ、これを確認することができない。
民法第977条 伝染病隔離者の遺言
伝染病のため行政処分によって交通を断たれた場所に在る者は、警察官一人及び証人一人以上の立会いをもって遺言書を作ることができる。
民法第978条 在船者の遺言
船舶中に在る者は、船長又は事務員一人及び証人二人以上の立会いをもって遺言書を作ることができる。
民法第979条 船舶遭難者の遺言
船舶が遭難した場合において、当該船舶中に在って死亡の危急に迫った者は、証人二人以上の立会いをもって口頭で遺言をすることができる。
第2項
口がきけない者が前項の規定により遺言をする場合には、遺言者は、通訳人の通訳によりこれをしなければならない。
第3項
前二項の規定に従ってした遺言は、証人が、その趣旨を筆記して、これに署名し、印を押し、かつ、証人の一人又は利害関係人から遅滞なく家庭裁判所に請求してその確認を得なければ、その効力を生じない。
第4項
第九百七十六条第五項の規定は、前項の場合について準用する。
民法第980条 遺言関係者の署名及び押印
第九百七十七条及び第九百七十八条の場合には、遺言者、筆者、立会人及び証人は、各自遺言書に署名し、印を押さなければならない。
民法第981条 署名又は押印が不能の場合
第九百七十七条から第九百七十九条までの場合において、署名又は印を押すことのできない者があるときは、立会人又は証人は、その事由を付記しなければならない。
民法第982条 普通の方式による遺言の規定の準用
第九百六十八条第三項及び第九百七十三条から第九百七十五条までの規定は、第九百七十六条から前条までの規定による遺言について準用する。