民法第1047条「受遺者又は受贈者の負担額」

民法第1047条 受遺者又は受贈者の負担額

受遺者又は受贈者は、次の各号の定めるところに従い、遺贈(特定財産承継遺言による財産の承継又は相続分の指定による遺産の取得を含む。以下この章において同じ。)又は贈与(遺留分を算定するための財産の価額に算入されるものに限る。以下この章において同じ。)の目的の価額(受遺者又は受贈者が相続人である場合にあっては、当該価額から第千四十二条の規定による遺留分として当該相続人が受けるべき額を控除した額)を限度として、遺留分侵害額を負担する。

一 受遺者と受贈者とがあるときは、受遺者が先に負担する。
二 受遺者が複数あるとき、又は受贈者が複数ある場合においてその贈与が同時にされたものであるときは、受遺者又は受贈者がその目的の価額の割合に応じて負担する。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
三 受贈者が複数あるとき(前号に規定する場合を除く。)は、後の贈与に係る受贈者から順次前の贈与に係る受贈者が負担する。

2項

第九百四条、第千四十三条第二項及び第千四十五条の規定は、前項に規定する遺贈又は贈与の目的の価額について準用する。

3項

前条第一項の請求を受けた受遺者又は受贈者は、遺留分権利者承継債務について弁済その他の債務を消滅させる行為をしたときは、消滅した債務の額の限度において、遺留分権利者に対する意思表示によって第一項の規定により負担する債務を消滅させることができる。この場合において、当該行為によって遺留分権利者に対して取得した求償権は、消滅した当該債務の額の限度において消滅する。

4項

受遺者又は受贈者の無資力によって生じた損失は、遺留分権利者の負担に帰する。

5項

裁判所は、受遺者又は受贈者の請求により、第一項の規定により負担する債務の全部又は一部の支払につき相当の期限を許与することができる。

 

意訳

受遺者または受贈者が遺留分侵害請求を受けた時は、次の各号にしたがい遺贈または贈与の目的の価額を限度として支払額を負担する。

1 受遺者と受贈者が共にいるときは、受遺者が先に負担する

2 受遺者が複数いる場合または受贈者が複数いる場合、その贈与が同時にされたときは受遺者または受贈者がその目的の価額の割合に応じて負担する。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

3 受贈者が複数あるときは、後の贈与を受けた受贈者から順次前の贈与の受贈者が負担する。

2項

1項で出てくる遺贈または贈与の目的の価額については第904条、第1043条第2項、第1045条の規定を当てはめて適用する。

3項

遺留分侵害請求を受けた受遺者または受贈者が遺留分権利者が承継した債務を弁済その他の債務を消滅させる行為をしたときは、消滅した債務の額を限度として、遺留分権利者に対して意思表示をすることで遺留分侵害請求によって負担すべき支払額を消滅させることができる。

この場合、遺留分権利者の債務を弁済するなどの行為によって遺留分権利者に対して取得した求償権は、消滅した債務の額の限度において消滅する。

4項

受遺者または受贈者の無資力によって生じた損失は、遺留分権利者の負担とする。

5項

裁判所は、受遺者または受贈者の請求により、遺留分侵害請求で負担する支払の全部または一部について相当の期限を許与することができる。

 

条文解説

受遺者または受贈者が遺留分侵害請求を受けた場合の負担額と負担する順番について規定された条文です。

まず負担額については被相続人から遺贈・贈与されたものの価額が限度となります。

つまり、原則として受遺者・受贈者は被相続人からもらった以上の金額を支払う義務は負いません。

この条文でいう『遺贈』は特定財産承継遺言による財産の承継または相続分の指定による遺産の取得のことを指します。

また『贈与』は遺留分を算定するための財産の価額に算入されるものに限られ、相続人以外の人への贈与は相続開始前の1年間に行われたもの、相続人への贈与は相続開始前の10年間に行われた特別受益に該当するものが含まれます。

ただし、相続人が受遺者・受贈者となり遺留分侵害請求された場合には限度額が少し変わります。

この場合はその相続人(=受遺者・受贈者)が受けた遺贈・贈与の価額からその相続人の遺留分額を差し引いた額が負担額の限度となります。

 

次に負担する順番に関して規定されている3つのケースについて解説します。

1つ目のケースは受遺者と受贈者が両方いるケースです。

この場合は、まず受遺者が遺留分侵害額を負担することになります。(本項第1号)

もし受遺者の支払いをもってしても侵害額の埋め合わせに足りない場合は次に受贈者が支払いの義務を負うことになります。

2つ目のケースは受遺者または同時に行われた贈与の受贈者が複数人いるケースです。

この場合は、受遺者または受贈者が受けた遺贈・贈与の目的の価額の割合に応じて支払いを負担します。(本項第2号)

3つ目のケースは複数の人に対して別々のタイミングで贈与が行われたケースです。

この場合は、後の贈与(最新の贈与)を受けた受贈者から順番に支払いを負担することになります。(本項第3号)

 

2項

1項で出てくる『遺贈・贈与の目的の価額』の決め方について規定されています。

もし贈与されたものが受贈者の行為によって滅失したり価格が増減したとしても、相続開始時には原状のままであるものとみなして価額を定めることになります。(第904条の準用)

また、価額が明らかではない遺贈・贈与については家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従ってその価額を定めます。(第1043条第2項の準用)

負担付遺贈または贈与が行われた場合には目的の価額から負担の価額を控除した額が、不相当な対価をもってした有償行為である場合には対価の価額を控除した額がそれぞれ遺贈・贈与の目的の価額となります。(第1045条の準用)

 

3項

遺留分権利者が相続した債務を受遺者または受贈者が弁済した場合の規定です。

もし遺留分権利者が100万円の借金を相続し、それを受遺者または受贈者が債権者に対して弁済したとします。

この場合、弁済をした受遺者または受贈者は100万円を限度額として遺留分権利者に対して負っていた侵害額の支払い義務を消滅させることができます。

このようなケースでは、受遺者または受贈者は遺留分権利者に代わって弁済を行っているため、遺留分権利者に対して求償権(立て替えた100万円を返してもらう権利)をもちますが、前の場面で既に100万円の侵害額の支払い義務を消滅させてもらっていますので、それをもって求償権も消滅してしまうわけです。

 

4項

本条第1項では、受遺者または受贈者が遺留分侵害請求を受けた場合の負担額と負担する順番について規定されていましたが、受遺者または受贈者に充分な資力(お金)が無く、遺留分権利者が遺留分を確保できないケースも考えられます。

このように受遺者または受贈者の無資力によって生じた損失は遺留分権利者が負担しなければなりません。

受遺者または受贈者が負担すべき金額と順番は第1項で予め決まっており、前の順番の人が払えないからと言って次の順番の人にその不足分まで請求をすることは許されていません。

 

5項

裁判所は受遺者または受贈者から請求があった場合、遺留分侵害請求に対する支払いについて相当の期限を許与することができます。

場合によっては受遺者または受贈者の支払額が多額になってしまい、まとまったお金を用意するのに相当な時間が必要なこともあります。

このような場合には裁判所に請求することで支払期限を許与してもらうことができます。

 

関連条文

民法第904条 特別受益者の相続分

前条に規定する贈与の価額は、受贈者の行為によって、その目的である財産が滅失し、又はその価格の増減があったときであっても、相続開始の時においてなお原状のままであるものとみなしてこれを定める。

 

民法第1043条 遺留分を算定するための財産の価額

第2項

条件付きの権利又は存続期間の不確定な権利は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って、その価格を定める。

 

民法第1045条 遺留分を算定するための財産の価額

負担付贈与がされた場合における第千四十三条第一項に規定する贈与した財産の価額は、その目的の価額から負担の価額を控除した額とする。

第2項

不相当な対価をもってした有償行為は、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってしたものに限り、当該対価を負担の価額とする負担付贈与とみなす。

 

 

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