民法第1046条 遺留分侵害額の請求
遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下この章において同じ。)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。
2項
遺留分侵害額は、第千四十二条の規定による遺留分から第一号及び第二号に掲げる額を控除し、これに第三号に掲げる額を加算して算定する。
一 遺留分権利者が受けた遺贈又は第九百三条第一項に規定する贈与の価額
二 第九百条から第九百二条まで、第九百三条及び第九百四条の規定により算定した相続分に応じて遺留分権利者が取得すべき遺産の価額
意訳
遺留分権利者(侵害された遺留分を請求できる人)およびその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人)または受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。
2項
第1042条で算出した遺留分から次の1号・2号の額を差し引き、さらに3号の額を加えたものを遺留分侵害額とする。
一 遺留分権利者が受けた遺贈または第903条第1項に規定する贈与の価額
二 第900条、第901条、第902条、第903条および第904条の規定により算定した相続分に応じて遺留分権利者が取得すべき遺産の価額
三 被相続人が相続開始の時において有した債務のうち、第899条の規定により遺留分権利者が承継する債務の額
条文解説
遺留分を侵害された人(遺留分権利者)は、侵害した人に対して侵害額に相当する金銭の支払いを求めることができます。
この権利を『遺留分侵害請求権』といいます。
遺留分の侵害は、被相続人が生前に特定の人に多額の生前贈与を行っていた場合や、相続人や受遺者・受贈者(遺贈・贈与を受ける人)が遺産の多くを1人で相続するような遺言が遺されていた場合に起こりやすい問題です。
2019年7月1日にこの条文は施行されましたが、それまでは『遺留分減殺請求』といわれ、侵害額の埋め合わせは金銭の支払い以外にも相当額の不動産の権利や有価証券を取得させる方法などが認められていました。
それが法改正により“金銭の支払い”による一本化となりました。(ココめっちゃ大事!)
なお、遺留分侵害請求権を行使するかどうかは権利者の自由で、もし遺留分を侵害されたとしても自身の相続分に納得しているのであれば無理に行使する必要はありません。
2項
では、遺留分を侵害された人はいくら請求することができるのでしょうか。
それを求める計算方法が規定されたのがこの条文になります。
まず第1042条に規定されているルールに沿って遺留分額を計算します。
次に特別受益額を差し引きます。(本条1号)・・・遺産の前渡しを受けている分は遺留分額から減額
次に遺産分割によって取得する価額を差し引きます(本条2号)・・・実際に遺産から取得する分は減額
最後に権利者が引き受ける債務額を足します(本条3号)
上記の方法によって求められた金額が遺留分侵害額、つまり遺留分に達するまでに埋め合わせをしてもらわなければならない金額となります。
関連条文
民法第899条 共同相続の効力
各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継する。
民法第900条 法定相続分
同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。
一 子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各二分の一とする。
二 配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は、三分の二とし、直系尊属の相続分は、三分の一とする。
三 配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、四分の三とし、兄弟姉妹の相続分は、四分の一とする。
四 子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。
民法第901条 代襲相続人の相続分
第八百八十七条第二項又は第三項の規定により相続人となる直系卑属の相続分は、その直系尊属が受けるべきであったものと同じとする。ただし、直系卑属が数人あるときは、その各自の直系尊属が受けるべきであった部分について、前条の規定に従ってその相続分を定める。
第2項
前項の規定は、第八百八十九条第二項の規定により兄弟姉妹の子が相続人となる場合について準用する。
民法第902条 遺言による相続分の指定
被相続人は、前二条の規定にかかわらず、遺言で、共同相続人の相続分を定め、又はこれを定めることを第三者に委託することができる。
第2項
被相続人が、共同相続人中の一人若しくは数人の相続分のみを定め、又はこれを第三者に定めさせたときは、他の共同相続人の相続分は、前二条の規定により定める。
民法第903条 特別受益者の相続分
共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。
第2項
遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。
第3項
被相続人が前二項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思に従う。
第4項
婚姻期間が二十年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について第一項の規定を適用しない旨の意思を表示したものと推定する。
民法第904条 特別受益者の相続分
前条に規定する贈与の価額は、受贈者の行為によって、その目的である財産が滅失し、又はその価格の増減があったときであっても、相続開始の時においてなお原状のままであるものとみなしてこれを定める。
民法第1042条 遺留分の帰属及びその割合
兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第一項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。
一 直系尊属のみが相続人である場合 三分の一
二 前号に掲げる場合以外の場合 二分の一
第2項
相続人が数人ある場合には、前項各号に定める割合は、これらに第九百条及び第九百一条の規定により算定したその各自の相続分を乗じた割合とする。